転職はライフプラン・キャリアプランを左右する大きなイベントですが、なかには吟味せずに転職先を決めてしまい、「こんな職場だと思っていなかった…」と後悔する薬剤師も少なくありません。転職には大きな労力を伴いますし、せっかくならば「イキイキと働けるようになった」と思える転職をしたいものです。そのために大切なのは、「転職先に求める条件の優先度を決めること」。転職先の判断材料は、給与をはじめ勤務地、業務内容、転勤の有無など、いくつもの要素があります。しかし、すべての条件が完全に理想通りという転職先はなかなか見つからないもの。「絶対に譲れない条件」と「できれば叶えたい条件」の判別を明確にして、優先順位をつけることが大切です。そして、優先順位をつけるためには、適切な情報収集が欠かせません。本記事では、薬剤師の転職市場動向、キャリアの考え方、雇用形態ごとの特徴など、転職を検討するにあたり知っておきたい情報をまとめました。後悔のない転職を実現するための一助としてください。
目次
厚生労働省によれば、医療・福祉業界における新卒就職者の3年以内離職率は37.8%。
日本では「とりあえず入社したら3年間は在籍する」風潮がありますが、こと医療業界においては当てはまっていないようです。
上の表は転職を経験したことがある薬剤師が入社何年目に転職したのかを調査したもの。
1年目の転職者こそ8%と少ないものの、やはり3年以内の離職率が高いことがわかります。
一方、「10年目以降」と回答した薬剤師も22%と多く、転職のタイミングは二極化していると言えそうです。
では、どのような理由から、初めての転職を決意しているのでしょうか。
転職の理由はさまざまですが、「スキルアップのため(28%)」「人間関係に不満(14%)」「勤務時間・残業に不満(12%)」の順。年収や勤務地といった勤務条件よりも、自己研さんや職場の雰囲気を重視する薬剤師が多いようです。
診療報酬改定は薬剤師の働き方や給与に大きな影響を与える存在です。
近年は、財源である社会保障費を削減するため厳しい改定内容が続いており、医療機関にとっては向かい風の状況です。
こうした中、医療機関が利益を上げつつ運営していくためには、改定内容に沿った事業計画を立て、設備や人員体制を整える必要があります。そのため、診療報酬改定に対応できる薬剤師が評価されやすいといえます。(詳細は2.薬剤師のキャリアプランを確認ください)
近年の診療報酬改定におけるキーワードは「地域包括ケアシステムの構築」。
そのなかで薬剤師に求められているのは「対物業務から対人業務への転換」です。具体的には、薬剤師が患者一人ひとりに最適な服薬管理を行う「かかりつけ機能」がいっそう重視されるようになっています。
厳しい診療報酬改定によって、薬剤師に有利な“売り手市場”と言われ続けてきた転職市場にも変化のきざしが見えています。
「薬キャリ」提携の転職エージェント17社に2018年の薬剤師転職市場動向についてアンケートを実施しました。
調剤薬局業界
・どちらかと言えば薬剤師優位
現状で大手~個人薬局まで人手不足は蔓延しており、ある程度調剤薬局側が譲歩するケースが想定されるため。
ドラッグストア業界
・どちらかと言えば薬剤師優位
調剤併設店の増加、24時間営業等に伴い、薬剤師採用に対する意欲が高い。
病院業界
・どちらかと言えば企業優位
急募の病院に関しては限られている。また、病院は若い薬剤師を確保したいと調剤薬局以上に考えていると感じているので、年を増すほど転職先はかなり限られる。
基本的に薬局・ドラッグストアでは薬剤師優位、病院では企業優位と回答する転職エージェントが目立ちました。ただし、企業規模や地域などによってその度合は異なります。詳しくは関連記事をご覧ください。
今後は薬剤師数の増加により買い手市場に近づいていくことが予想されます。
転職するうえで最も大事なのはキャリアプランを明確にすること。「薬剤師としての市場価値を高める」「子育て・介護と両立して働く」など、自分が何を重視したいのかを明らかにしましょう。そのうえで、必要なスキルや環境を今の職場で得られるか考えることが重要です。
診療報酬改定の章で触れた通り、2016年の改定以降、行政は「かかりつけ機能」をもつ薬剤師・薬局を評価しています。
薬剤師として市場価値を高めたいと考えているならば、「かかりつけ薬剤師」としてのキャリアを積むことは不可欠と言えるでしょう。
また、「対物業務から対人業務への転換」という言葉に代表されるように、調剤スキル以上にコミュニケーションスキルの重要度が増しています。
かかりつけ薬剤師に期待されている役割は大きく3点。
患者さんにとって「薬に関して、いつでも気軽に相談できる身近な存在」としての機能が求められています。
かかりつけ薬剤師の業務は負担が小さいとは言えませんが、医師・看護師からの信頼もあつく、地域医療に欠かせない存在として活躍しています。
やりがい
休日、患者さんが「いまドラッグストアにいて、OTC薬を購入したいと思っている」と相談の電話がきた。服用している薬を把握しているため、患者さんに合った選択のお手伝いができた。
大変さ
公休日であっても対応せざるを得ない。客人が来ていても、依頼があれば調剤や、在宅へ配達しなければならないのでストレスが溜まる。
かかりつけ薬剤師の重要度が高まるにつれて、「薬剤師は調剤スキルさえあればいい」という時代は過ぎ去りました。近年、注目されているのは「コミュニケーションスキル」です。実際に、7割を超える転職エージェントが最も重要なスキルとして挙げています。
かかりつけ薬剤師として活躍するには、健康相談や服薬指導を通して患者や地域住民から信頼される薬剤師になることが必要です。また、地域の関係機関との多職種連携を進めていくうえでも、コミュニケーションスキルの重要度は今後ますます増していくでしょう。
とはいえ、コミュニケーションスキルは一朝一夕で身につくものではなく、経験を積むなかできたえられていくもの。会話のテンポ、表情やしぐさなどに気を配りながら、患者さんとより多くのコミュニケーションをとるように努めることが必要です。
かかりつけ薬剤師として活躍するためにはコミュニケーション能力が必要。また、結局薬剤師業務に関してはサービス業だから。
売り手市場下における転職市場の中で、多くの社会常識に欠ける薬剤師が見過ごされてきたという現実がある。その部分の意識改革がないと、今後厳選採用が進む市場において行き場の無い薬剤師が生まれると思われるため。
女性薬剤師のなかには、結婚・出産・子育てといったライフイベントと薬剤師としてのキャリアの両立に悩む人もいるでしょう。
大切なのは、キャリアプランを明確にしたうえで、家庭と仕事を両立できるように支援制度が整った職場を探すことです。
男性よりも女性の割合が高い薬剤師業界は、産休・育休制度、時短勤務制度などをはじめとする支援制度を整備している医療機関は珍しくありません。仮に結婚や育児などを理由に薬剤師として数年のブランクができたとしても、現状は売り手市場が続いているため、比較的、再就職先を探しやすいと言えます。
「子どもが1歳になったタイミングで6年間の専業主婦生活にピリオドを打って調剤薬局に再就職。「近場で働ける」という観点で就職先を選んだのですが、ママ薬剤師は私だけ。保育園からの呼び出しなどに嫌な顔をされ、働きづらかったですね。そこで、今度は近所の大手に転職。ママ薬剤師は私のほかにも数人いたので職場の理解も得られるし、制度もきっちり整っていました。今は快適に働いています」
岩手県:37歳女性
患者さんの命に関わる仕事だけに薬剤師の業務は心理的なストレスがかかるもの。新卒薬剤師のなかには自分の薬剤師としての資質やキャリアプランに不安を覚える人もいるようです。
そんな新卒薬剤師に向けて、病院、薬局でそれぞれ働く20代後半の先輩薬剤師からアドバイスをもらいました。
佐藤健太さん(仮名)(28歳)
病院薬剤師。東京都内の大学病院に3年間勤務後、転職。現在は、地元・静岡県にある公立病院でがん領域の専門性を高めている。
高橋翔さん(仮名)(29歳)
薬局薬剤師。東京都内の大学病院に2年間勤務後、神奈川県の薬局に転職。現在の目標は在宅医療に精通した薬剤師になること。
Q
いまの職場の業務が辛くて転職したいのですが、1年目の転職は早いですか?
佐藤さん
私は1年目での転職には反対です。仮に1年目で転職しても、業務内容はどの職場でも大差ないと思います。
私は「若いうちの苦労は買ってでもしろ」の精神で、多少ハードでもスキルアップできる就職先を探しました。実際、苦労の甲斐はあったと感じています。見切りをつけるのは、もう少し地力がついてからでも良いのではないでしょうか。
私もおおむね同意見です。業務や職場の薬剤師、患者さんとの距離感は、一朝一夕で身につくものではありません。
職場に不満がある場合は、不満の要因を書き出していまの職場では解決できないのかを検討したり、周囲の薬剤師に相談してみたりすると、客観的に考えられると思います
しかし、勤務を続けると心身に支障をきたすほど深刻な場合は、決して無理せず転職に切り替えるのもよいと思います。
高橋さん
Q
単純作業ばかりで飽きてしまいました。私は薬剤師に向いてないのでしょうか?
佐藤さん
「薬剤師向いてないかも…」と思いながら働いている薬剤師の方が多いのではないでしょうか。少なくとも私の同期で「薬剤師こそ天職!」と言っている人は1人しかいないです。
「単純作業ばかりで退屈」ということですが、現在、薬剤師は「対物業務から対人業務への転換」が行政主導で進んでいます。かかりつけ薬剤師としてコミュニケーション主体の対人業務が重要度を増しているのです。また、ピッキングのような単純作業は近い将来機械に代わられていくでしょう。
いまはまだ経験も浅く、簡単な業務しか任せてもらえないのかもしれませんが、かかりつけ薬剤師として実力をつけていくなかで、その不満は解消されていくかと思います。
「薬剤師は向いていない」と見切りをつけるのは早計ではないでしょうか。
高橋さん
現場で活躍している薬剤師も、仕事で疲れたりミスをしたりすると弱気になることがあるようです。「仕事を辞めたい」という気持ちが一時の衝動なのか判断がつかないという人は、転職エージェントに相談するのもおすすめです。
薬剤師としての10年後、20年後の働き方、プライベートとの両立など、キャリアについて悩んだ時は、薬剤師のキャリアのプロを頼って、ご自身の考えを整理してみてはいかがでしょうか。
売り手市場が続く薬剤師業界では、雇用形態に関わらず採用に積極的な医療機関が多いです。ライフステージの変化に合わせて、比較的自由に働き方を選べるのは薬剤師の魅力のひとつと言えるでしょう。
正社員、派遣社員、契約社員、パート社員とさまざまな雇用形態がありますが、自分のキャリアプラン・ライフプランを踏まえて適切な働き方を選択してください。
雇用形態 | 正社員 | 契約社員 | 派遣社員 | パート |
---|---|---|---|---|
雇用主 | 就業先 | 就業先 | 派遣会社 | 就業先 |
雇用期間 | 無期 | 有期 | 有期 | 無期 |
残業 | あり | 選択可能 | 選択可能 | なし |
社会保険 | 就業先の社会保険に加入 | 就業先の社会保険に加入 | 派遣会社の社会保険に加入 | 条件付きで就業先の社会保険に加入可能 |
法定外福利厚生 | 就業先の制度が適用 | 就業先の制度が適用 | 派遣会社の制度が適用 | 条件付きで就業先の制度が適用 |
昇給制度 | ◎ | △ | △ | ○ |
キャリアアップ | ◎ | △ | △ | ○ |
勤務時間の柔軟さ | △ | ○ | ○ | ◎ |
薬キャリ掲載求人数 ※2019年3月時点 |
44,097 | 1,163 | 8,255 | 143,34 |
薬キャリ掲載求人数 「定期昇給あり」 |
21,203 | 157 | 608 | 4,510 |
48.1% | 13.5% | 7.4% | 31.5% | |
薬キャリ掲載求人数 「未経験・ブランク可」 |
25,339 | 657 | 268 | 8,827 |
57.5% | 56.5% | 3.2% | 61.6% | |
薬キャリ掲載求人数 「管理薬剤師」 |
4,034 | 94 | 7 | 762 |
9.1% | 8.1% | 0.1% | 5.3% | |
薬キャリ掲載求人数 「高年収600万以上」 |
26,315 | 691 | 2,182 | 7,486 |
59.7% | 59.4% | 26.4% | 52.2% |
正社員は、雇用期間に期限がない「安定感」と、昇給制度、賞与といった「給与の多さ」が特徴です。契約社員や派遣社員とは異なり、入社後は基本的に定年まで働き続けられます。
さらに、昇給制度や賞与といった面でも、パートなど他の雇用形態に比べて充実しています。
契約社員とは、半年・1年など雇用期間を決めて、有期労働契約を結んでいる社員のこと。契約社員は有期雇用なので、会社側は採用を迷った際に「まずは1年働いてもらって様子をみよう」といった選択が可能になり、正社員よりも採用のハードルが下がりやすい傾向があります。
また、労働条件の交渉をプロフェッショナルである派遣会社に一任できるため、薬剤師自身が交渉するよりも、希望に即した働き方が叶いやすいのです。
一見いいことずくめの派遣薬剤師ですが、派遣薬剤師に求められるのは基本的な業務が中心ですので、「キャリアアップの機会がない」「スキルアップしにくい」という欠点もあることは覚えておきましょう。
派遣薬剤師とは、雇用主が薬局やドラッグストアといった就業先ではなく、派遣会社と雇用契約を結んで働く薬剤師のこと。派遣薬剤師の求人は急な退職者が出たり、人員不足が深刻だったりするケースが多く、正社員を上回る年収で募集が出ることも珍しくありません。
また、労働条件の交渉をプロフェッショナルである派遣会社に一任できるため、薬剤師自身が交渉するよりも、希望に即した働き方が叶いやすいのです。
一見いいことずくめの派遣薬剤師ですが、派遣薬剤師に求められるのは基本的な業務が中心ですので、「キャリアアップの機会がない」「スキルアップしにくい」という欠点もあることは覚えておきましょう。
パート社員は、フルタイムで働くことが難しい人にとって、魅力的な働き方と言えるでしょう。正社員と違って残業が原則ないため、「繁忙期だから帰宅が極端に遅くなる」といったプライベートへの影響はほとんどありません。
時給制のため勤務時間に応じた給与となり、勤務時間が短いと所得は低くなりますが、所得額よりもプライベートを重視したいという方にはぴったりの雇用形態と言えるでしょう。
一方でライフステージの変化などにより退職する可能性が高いパートに対しては教育・研修制度や機会を整えていない企業も多く、正社員薬剤師に比べて、スキル面で差ができやすいです。福利厚生の利用などに制限が設けられているケースもあるので、注意が必要です。
世界最速のスピードで少子高齢化が進んでいる日本では、薬剤師を取り巻く業界も変革が求められています。
各業界の動向を把握し、どの業界で経験を積んでいくのかキャリアプランを考える参考にしてください。
多くの調剤薬局が減収となった2016年度から一転、2017年度は前年度の売上高を上回る会社が目立ちました。各社とも「かかりつけ薬剤師・薬局」化を進め、調剤技術料を伸ばしたことが大きな要因といえるでしょう。
順位 | 企業名 | ||||||
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1 |
アインホールディングス
アインファーマシーズ・あさひ調剤・葵調剤・アインメディオ・メディオ薬局・ダイチク |
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2 |
日本調剤
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3 |
クオール
共栄堂・アルファーム・フクシメディカル・有限会社ユニメディカル・有限会社メディスト・琉球クオール |
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4 |
総合メディカル
総合メディカル・ファーマシー中部・祥漢堂・タイコー堂薬局本店・あおば調剤薬局・みよの台薬局グループ・ヤタヤ薬局・有限会社ファーマシステムズ <・ 有限会社ケイエスメディスン |
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5 |
スズケン
ファーコス・エスマイル |
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6 |
東邦ホールディングス
ファーマみらい・ファーマダイワ・ベガファーマ・青葉堂 |
||||||
7 |
メディカルシステムネットワーク
サンメディック・共栄ファーマシー・シー・アール・メディカル・トータル・メディカルサービス |
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8 |
アイセイ薬局
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9 |
ファーマライズホールディングス
北海道ファーマライズ・新世薬品・エシックス・ファーマライズ・テラ・ヘルスプロモーション・双葉 |
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10 |
トーカイ
たんぽぽ薬局株式会社 |
2018年度診療報酬改定では、「患者のための薬局ビジョン」にのっとり「かかりつけ薬局・薬剤師」機能を推進していく国の方針が改めて示されました。
そのうえで、「グループ全体で処方箋受付回数40万回超」や「グループ全体で処方箋受付回数4万~40万回超」に該当する薬局の調剤基本料が引き下げられたり、要件が厳格化したりと、大手調剤薬局にとって向かい風の状況が続いています。
診療報酬改定で評価された項目を踏まえると、
がいっそう重視されていくと言えそうです。
ドラッグストア業界では調剤薬局併設型ドラッグストアの拡大とともに、薬剤師の専門性を生かして働ける企業が増えており、薬剤師の就職先として年々存在感を増しています。
日本チェーンドラッグストア協会によると、2017年度の業界市場規模(総売上高)は約6兆8,504億円(対前年度比105.3%)。2025年に10兆円。
ドラッグストア業界は、大手チェーンを中心にM&Aや新規出店が進んでおり、総店舗数は増加する一方で、総企業数は減少しています。2017年度もその傾向は変わらず、総店舗数は前年度より660店舗増えて1万9,534店舗、総企業数は15社減って416社でした。
順位 | 企業名 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 |
ウエルシアホールディングス
ウエルシア薬局・シミズ薬品 |
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2 |
ツルハホールディングス
ツルハ・くすりの福太郎・ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本・レデイ薬局・株式会社杏林堂薬局 |
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3 |
コスモス薬品
|
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4 |
マツモトキヨシホールディングス
マツモトキヨシ・ぱぱす・マツモトキヨシ東日本販売・マツモトキヨシ甲信越販売・マツモトキヨシ中四国販売・マツモトキヨシ九州販売・マツモトキヨシファーマシーズ・示野薬局 |
||||||
5 |
スギホールディングス
スギ薬局 |
||||||
6 |
サンドラッグ
|
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7 |
ココカラファイン
ココカラファインヘルスケア・有限会社東邦調剤・有限会社古志薬局 |
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8 |
カワチ薬品
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||||||
9 |
クリエイトSDホールディングス
クリエイトエス・ディー |
||||||
10 |
クスリのアオキホールディングス
クスリのアオキ |
売上高ランキング上位10社の市場占有率は売上高ベースで65%、店舗数ベースで56%。M&Aによる業界の寡占化は今後もしばらく進んでいく見込みです。
これまで九州地方を中心に展開していたコスモス薬品が関西地方、中国地方に積極的に展開したり、中部地方で展開していたクスリのアオキが千葉県進出を宣言したりと、競争が激化する兆しはすでに見えています。
医療人材について「地域偏在」という言葉を一度は聞いたことがあるかと思います。
主に地方部での医師不足を説明する際に用いられる言葉ですが、これは薬剤師業界にも当てはまります。
この地域偏在は薬剤師の年収にも大きな影響を与えています。
具体的には、薬剤師が不足している地域では薬剤師の「売り手市場」になるため薬剤師の年収は上がりやすく、薬剤師が充足している地域ではその反対の状況になりやすいのです。
とはいえ、中長期的にみると薬剤師数は年々増加しており、地域偏在は徐々に解消していくことが見込まれます。あくまで好条件求人探しの一助として参考程度にとどめておくことをおすすめします。
調剤薬局業界の最大手であるアインホールディングスや、2017年9月末にドラッグストア業界の売上高第1位へとおどり出たツルハホールディングスなど、名だたる企業の創業の地である北海道。
道内の薬剤師(常勤のみ)の約4割は札幌市内で就業しているため、薬剤師不足を感じている事業所も多く、その偏在が大きな問題です。そのため、地方に行くほど高年収求人が出される可能性も高くなり、逆に人材が充足している札幌市近辺では比較的給与が上昇しにくい傾向にあります。
ウエルシアホールディングスをはじめ、大手と呼ばれる多くの企業は本社ないし拠点がある東京都。外資系を含む製薬企業も多く、MRなどの営業職や研究・開発職の採用が他地域よりも多く、自分の業績次第では年収1000万を超えることも不可能ではありません。
とはいえ、比較的薬剤師数が充足しているエリアのため、年収の低い事業所も目立ちます。
総じて、キャリアアップを重ねてマネジャークラスを目指すなど、努力に応じて高年収が叶えられる地域と言えそうです。
愛知県は、調剤薬局の35%が名古屋市に集中しているなど、北海道における札幌市と同様に、地域内で薬剤師の偏在がみられます。そのため、名古屋市から離れた地域では高年収を期待しやすい傾向にあります。
また、大きな特徴として、全3,151店舗の調剤薬局のうち約95%にあたる2,982店舗において在宅事業を行っており、これは全国平均を大きく上回っています。
大阪府は大都市ゆえにドラッグストアの店舗数が多い一方で、東京都に比べて製薬企業などの求人が少なく、北海道や愛知県のような地域内の偏在もそれほど顕著ではありません。
東京都と同じく、薬剤師が比較的充足している地域であり、年収が低くなりやすい傾向です。
とはいえ、日本最大の製薬企業である武田薬品工業が本社を構えるほか、ウエルシア関西など各社も拠点を有しています。自身のキャリア次第では、高年収を実現することは十分に考えられるでしょう。
福岡県は人口10万人当たり調剤薬局数が56.94件、薬剤師数が121.49人と全国平均を大きく上回っています。さらに、病院数も大阪に次いで全国4位。各条件を見る限り、低年収になりやすい要素がそろっている地域です。
九州地方最大手のコスモス薬品など、同地域に注力する事業所でキャリアアップを図る、もしくは後継者不足などに頭を悩ます中小規模の薬局などが高年収を実現するポイントになるでしょう。
転職市場の動向、キャリアプラン、雇用形態ごとのメリット・デメリット、業界動向、地域ごとの求人の特徴――これまでご紹介してきたように、転職を成功させるうえで集めるべき情報は多岐に渡ります。いずれも転職を成功させるために必要な情報とはいえ、忙しい仕事の合間を縫って、自分の力だけですべてを網羅するのは至難のわざ。
そこで、具体的な転職活動の進め方として、転職エージェントを活用するのも一手です。「転職のプロ」の力を借りることで、効率的な情報収集できるのはもちろん、理想のキャリアプランに沿った転職先を見つけやすくなります。
転職活動を進めるうえで、大きな助力となるのが転職エージェントの存在。
実際、薬剤師が初めての転職活動で選ぶ方法は「転職エージェントの利用(42%)」「自己応募(32%)」「知人からの紹介(20%)」となっており、転職エージェントを使った転職は一般的な手段になっています。
転職エージェントを利用するメリットのひとつに「非公開求人」を紹介してもらえることがあります。
実は、求人には「公開求人」「企業名非公開求人」そして「サイト非公開求人」の3種類があります。そして高待遇の求人の多くは、「企業名非公開求人」「サイト非公開求人」なのです。非公開求人が高待遇である理由は下記の記事をご参照ください。
「希望条件を満たす職場が見当たらない…」とお悩みの方も、もしかしたら非公開求人のなかに、お探しの薬剤師求人があるかもしれません。
転職エージェントによって抱えている非公開求人は異なるため、複数社に登録するほうが、多くの非公開求人をチェックできます。「薬キャリ」では一度に3社の転職エージェントに登録することが可能。手間をかけずに多くの薬剤師求人をチェックできるので、是非活用してみてください。
転職エージェントによって「大手の薬局チェーンへの紹介実績が多い」「地域密着型のパパママ薬局に強い」など、得意分野があります。大手調剤薬局、ドラッグストア、地域密着薬局、総合病院など、転職したい業界を得意とする転職エージェントを選びましょう。
薬剤師転職のプロとはいえ、コンサルタントとの相性が良い・悪いは必ずあるもの。自分の希望を汲み取り、親身にキャリアプランを考えてくれるコンサルタントとともに転職活動をするのがおすすめです。
転職活動のうえで、疎かにしてはいけないのが元の職場の退職についてです。
薬剤師は狭い業界。 元同僚の薬剤師と転職先の上司が知り合いだった、なんて話は決して珍しくありません。 元の職場を円満退職することは、自分のキャリアを守るうえでも非常に重要です。
退職意向を伝えるタイミングは1.5カ月~2カ月前が一般的です。しかし、就業規則でそれよりも早い時期に設定されていることもあるので、事前にしっかり確認しましょう。
民法では2週間前に退職の意向を伝えれば良いとされていますが、後任の薬剤師への引継ぎなどを考えるとあまり現実的ではありません。また、可能であれば退職時期と繁忙期が被らないようにするなどの配慮をみせると、元の職場の印象も良くなります。
薬剤師不足の職場が多いため、退職を思いとどまる可能性がないか引き止め交渉をするのは、会社側にとってごく一般的な対応です。
会社・上司に退職の決意が固いことをわかってもらうためには、「納得できる退職理由」を「早めに伝える」ことが重要です。退職までの日程が短くなるほど、後任の薬剤師採用の目処が立たず、円満退職できなくなる危険性が高まります。
退職日が正式に決まったら、「退職願」もしくは「退職届」を提出したら、最終出社日まで誠意をもって業務にあたってください。
特に後任の薬剤師への引き継ぎは丁寧に漏れのないようにしましょう。引き継ぎがうまくいかないと、退職後も電話がかかってくるなど、お互いに手間がかかってしまいます。
最後に、実際に転職を経験した先達の事例を見てみましょう。
よくある転職の失敗パターンは、「転職前に聞いていた話と違う」というケース。こうした事態を防ぐうえでも、信頼できる転職エージェントを使って情報取集することは非常に重要です。また、万が一働き方が事前に約束した労働条件と異なる場合、転職先との交渉を一任することもできます。
独立支援の約束を裏切られた過去があり、「もうこんな思いをしたくない」と転職エージェントに目標が叶う職場を探してもらいました。希望を正しく汲んでいただき、いまは、新規店舗の管理薬剤師として店舗を軌道に乗せる経営的な勉強ができています!
面接では、年次昇給を保証しているとの話でしたが、年度が替わるたびに「経営が大変だからわかってほしい」と、昇給を見送られ続けました。
労働契約書に明記されているわけではなかったので、泣き寝入りするしかありませんでした。
さまざまな角度から薬剤師転職に関する情報をお伝えしてきました。
これだけは覚えておいていただきたい「転職の明暗を分けるポイント」は次の通りです。
「現職よりも好待遇」などの大雑把な理由だけで転職活動を進めることは、ミスマッチの火種になりかねません。
自分が転職先で叶えたいキャリアプラン・ライフプランを明確にしたうえで、理想の将来像を実現できる職場を選ぶことが重要です。「キャリアプランや希望条件が明確ではない」という薬剤師は、転職エージェントを利用しキャリア相談をすることから始めてもいいでしょう。
キャリアプラン・希望条件が定まった後は求人を探すことになりますが、ぴったり合う求人を自分の力だけで探すのは限界がありますし、非効率的。転職エージェントを利用することで、情報収集が容易になるだけでなく、自力ではアクセスできない非公開求人の情報も得られます。
このように、要所で転職エージェントを上手に利用することが、転職成功へとつながります。
転職は人生における一大イベント。自身のキャリアプランを定めたうえで、十分な情報収集を行い、後悔のない転職を実現させてください。