薬剤師は業務独占資格であり、さらに処方せん枚数は年々増加傾向にあるため、転職市場では薬剤師側が有利な“売り手市場”が続いています。雇用形態に関わらず採用に積極的な事業所も多く、ライフステージの変化に合わせて比較的自由に働き方を選べるのは、薬剤師の魅力のひとつと言えるでしょう。正社員、派遣社員、契約社員、パート社員とさまざまな雇用形態がありますが、ここでは派遣社員についてみていきます。
雇用形態 | 正社員 | 契約社員 | 派遣社員 | パート |
---|---|---|---|---|
雇用主 | 就業先 | 就業先 | 派遣会社 | 就業先 |
雇用期間 | 無期 | 有期 | 有期 | 無期 |
残業 | あり | 選択可能 | 選択可能 | なし |
社会保険 | 就業先の社会保険に加入 | 就業先の社会保険に加入 | 派遣会社の社会保険に加入 | 条件付きで就業先の社会保険に加入可能 |
法定外福利厚生 | 就業先の制度が適用 | 就業先の制度が適用 | 派遣会社の制度が適用 | 条件付きで就業先の制度が適用 |
昇給制度 | ◎ | △ | △ | ○ |
キャリアアップ | ◎ | △ | △ | ○ |
勤務時間の柔軟さ | △ | ○ | ○ | ◎ |
薬キャリ掲載求人数 ※2019年3月時点 |
44,097 | 1,163 | 8,255 | 143,34 |
薬キャリ掲載求人数 「定期昇給あり」 |
21,203 | 157 | 608 | 4,510 |
48.1% | 13.5% | 7.4% | 31.5% | |
薬キャリ掲載求人数 「未経験・ブランク可」 |
25,339 | 657 | 268 | 8,827 |
57.5% | 56.5% | 3.2% | 61.6% | |
薬キャリ掲載求人数 「管理薬剤師」 |
4,034 | 94 | 7 | 762 |
9.1% | 8.1% | 0.1% | 5.3% | |
薬キャリ掲載求人数 「高年収600万以上」 |
26,315 | 691 | 2,182 | 7,486 |
59.7% | 59.4% | 26.4% | 52.2% |
派遣薬剤師とは、派遣会社と雇用契約を結び、派遣会社と契約している薬局やドラッグストアで仕事をする薬剤師のこと。契約社員と同じく有期雇用であり、契約期間ごとに更新の可否が判断されます。
派遣薬剤師の最大の特徴は、雇用主が薬局やドラッグストアといった就業先ではないことです。
派遣薬剤師の雇用主は派遣会社です。給与は派遣会社から支給され、社会保険に加入する際も派遣会社の制度が適用されます。
なお、同時期に複数の派遣会社で働くことも可能です。とはいえ、ひとつの派遣会社で30時間(会社によっては20時間)以上の勤務時間がないと社会保険に加入できないことは覚えておきましょう。
派遣薬剤師には、正社員や契約社員への切り替えを前提とした「紹介予定派遣」という働き方もあります。
「紹介予定派遣」とは、一定期間(6ヵ月未満)派遣薬剤師として働いたうえで、本人と派遣先の両者が合意した場合に、派遣先と直接雇用契約を結ぶというもの。職場の雰囲気や業務の進め方を知ったうえで、正社員・契約社員として長く働くことができます。
派遣薬剤師のメリットは、「給与が高い」「ワークライフバランスが取りやすい」、そして、「いつでも派遣会社のサポートを受けられる」ことが挙げられます。
一般的に給与にこだわるとワークライフバランスを妥協しなければならず、その逆もまた然りですが、こと派遣薬剤師においては高給与とプライベートを両立しやすい雇用形態と言えるでしょう。
では、なぜ高給与とワークライフバランスを両立できるのでしょうか。
まず、給与が高い理由には、背景に薬剤師不足があります。特に派遣薬剤師の募集は、「急な退職者が出て、正社員の薬剤師を採用する目途がたっていない」「薬剤師不足地域で、募集をかけても採用できない」など、すぐにでも薬剤師を採用したいという医療機関によるものがほとんど。そのため、少しでも早く薬剤師を確保しようと、高給与で求人を出すケースが多いのです。年収換算すると、正社員を上回ることも珍しくありません。
次にワークライフバランスの取りやすい理由について。
勤務時間や休日、残業時間については雇用形態を問わず就業先の上司などに交渉できますが、正社員やパート、契約社員といった直接雇用の場合は、薬剤師が自分で交渉しなければなりません。一方、派遣薬剤師の場合は、派遣会社が薬剤師に代わって就業先に条件交渉をします。
ですから、派遣薬剤師は、希望条件を派遣会社に伝えておくだけでよいのです。派遣会社は条件交渉のプロフェッショナルですから、薬剤師自身で交渉するよりも成功率が高くなります。
そのため、よほど無茶な希望条件を出さない限り、ほかの雇用形態に比べて希望に即した働き方が叶いやすいのです。
そのほか、契約した労働条件と実際の働き方が異なっていた場合、あるいはライフステージの変化に合わせて労働条件を変えたい場合など、就業後のトラブルや交渉についても派遣会社に相談できます。派遣会社のサポートを受けながら安心して働けるという点も派遣薬剤師の魅力のひとつと言えるでしょう。
以上のように、「薬剤師需要が非常に高い医療機関からの求人が多い」かつ「派遣会社が希望条件を満たす求人を探し、交渉する」ことで高給与とワークライフバランスを両立しやすいのです。
高給与でワークライフバランスも取りやすい、と一見いいことずくめの派遣薬剤師ですが、当然デメリットもあります。
それは、「キャリアアップの機会がない」「スキルアップしにくい」という2点です。
派遣社員は、「指揮命令者」の指示にしたがって業務を行うため、投薬、鑑査、服薬指導、薬歴記入といった基本的な業務が中心。「指揮命令者」の目を離れる業務、たとえば一人で患者宅に薬を届けにいく在宅医療などを任されることはほとんどないため、キャリアの幅を広げにくい雇用形態と言えます。
また、有期雇用であるため、マネジメント職や管理薬剤師への昇格の機会も基本的にありません。よって、薬剤師としてキャリアの幅を広げていきたいという人にとっては大きなデメリットになるでしょう。
業務から得る経験だけでなく、業務外のスキルアップの機会が少ないのも派遣薬剤師の特徴です。
近年、多くの薬局や病院が、セミナー費用の補助やe-ラーニングシステムの導入など、さまざまなスキルアップの支援制度を整えていますが、派遣薬剤師は派遣会社の被雇用者であるため、これらの福利厚生を利用できないケースが少なくありません。
このように、派遣薬剤師は他の雇用形態に比べるとキャリアアップ、スキルアップについて一歩劣ってしまうのです。
有期雇用とはいえ、正社員を上回る高給与を得られ、ワークライフバランスも取りやすい派遣薬剤師。反面、スキルアップの機会が少なく、キャリアの幅を広げていきにくいという欠点もお伝えしてきました。
「長期旅行や留学に向けて、短期間で目標金額を稼ぎたい。帰国後は正社員として復職する」など、ライフプランが明確な人にとって、派遣という働き方は目標を実現する大きな助けとなるでしょう。
再三に渡り触れてきましたが、派遣薬剤師の雇用主は派遣会社です。派遣薬剤師を検討する際は、必ず派遣会社についての情報収集も行ってください。
登録自体は無料なので、比較検討するためにも複数の派遣会社に登録すると良いでしょう。
なぜなら、社会保険料や受けられる福利厚生、もっている求人内容などは派遣会社ごとに異なります。そして派遣先でイキイキと働き続けるためには、コンサルタントとの相性も重要でしょう。
自分に合う派遣会社を探すことが、派遣薬剤師として働くためのファーストステップです。薬キャリでは派遣薬剤師の求人も多数掲載していますので、求人と派遣会社の情報収集として是非活用してください。