薬剤師の皆さんに仕事や転職についてどのように感じているのかを、エムスリーキャリアがリサーチする独自企画。「年収」「人間関係」「仕事内容」「キャリアアップ」などさまざまな角度から、薬剤師の転職・仕事に関する意向をご紹介します。今回のテーマは「後悔した転職」。薬剤師は他の職種に比べて転職回数が多いと言われます。転職によってイキイキと働く薬剤師がいる一方で、「こんな職場だと思わなかった…」と転職を後悔してしまう人も。彼ら・彼女らは一体どんな点に後悔を感じているのでしょうか。また、後悔のない転職をするためにはどんなことに気をつければいいのでしょうか。アンケート結果をもとに探っていきます。
これまで転職で後悔した経験がある薬剤師は53.1%。
なんと半分以上の薬剤師は「転職しなければ良かった」と考えたことがあるそうです。
年齢別に見ると、「転職を後悔した経験がある」と回答した薬剤師の割合は、20~30代では36.4%であるのに対し、40代以上では過半数を超えています。
キャリアが長くなるにつれ転職回数も増えることから、失敗を経験する薬剤師も増えているのかもしれません。(年代別の転職回数の詳細は「薬剤師の転職実態調査-vol3.転職活動 」をご覧ください)
では、薬剤師は転職先のどんな部分について不満を感じているのでしょうか。
図3-1のように、転職を後悔している理由として最も多かったのは、「人間関係」。次いで「年収」という結果でした。
両者について、実際に寄せられたエピソードとともにもう少し掘り下げてみましょう。
・上司、経営層との関係が悪い
転職後に管理薬剤師が代わり、職場の雰囲気が悪化。業務はそつなくこなせる人だが、言葉遣いが悪い、挨拶しないなどモラル面に問題がありすぎる。
社長の考え方がとにかく売上最優先。面接時の「患者のため」「地域のため」という言葉は何だったのか。だまされた。
・同僚との関係が悪い
遅刻しても平気な顔をしていたり、勤務中にスマホを触っていたりと勤務態度が目に余る。そのくせ、夏季の連休申請は誰よりも早い。
人間関係については特に、上司・経営層との関係に悩む薬剤師が多い結果となりました。
なかには自分が担当していない処方箋の薬歴を書くように指示されたという人も。法律違反の指示はもってのほかですが、職位の高い人たちから冷たい対応をされたり、理不尽な要求をされたりするなかで、転職を後悔する薬剤師が多いようです。また、同僚との人間関係については、「自分勝手な行動が多い」「自発的に動かない」などの意見が寄せられました。
では、職場の人間関係について、どのような情報チェックするとよいのでしょうか。
一つの指標として使えるのは、離職率です。
厚生労働省の「若年者雇用対策に関するデータ・調査」によれば、医療・福祉業界における新卒社員の入社3年以内平均離職率は38.0%。この調査は薬剤師以外の職種も含まれていますが、目安として頭に入れておくと良いでしょう。
とはいえ、人間関係以外の要因にも影響されます。より正確に情報収集をしたいならば、紹介会社を利用して、コンサルタントに情報収集を依頼することをおすすめします。
・昇給率が低い(もしくは昇給しない)
面接では、年次昇給を保証しているとの話でしたが、年度が替わるたびに「経営が大変だからわかってほしい」と、昇給を見送られ続けました。
薬局長が年に2回人事考課をするが、薬局長と仲が良いかどうかで昇給・賞与が変わってしまう
人間関係に次いで、転職を後悔した理由として多かった年収。
なかでも、昇給率の低さを嘆く薬剤師の声が目立ちました。転職時の年収には関心が高くても、昇給制度や昇給率まで目が向かない人が多いようです。
しかし、年収を考えるうえで昇給率は非常に重要な要素。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | ||
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A薬局 | 年次昇給率1% | 600万円 | 606万円 | 612万円 | 618万円 | 624万円 |
所得合計 | 600万円 | 1,206万円 | 1,818万円 | 2,436万円 | 3,060万円 | |
B薬局 | 年次昇給率3% | 580万円 | 597万円 | 615万円 | 633万円 | 652万円 |
所得合計 | 580万円 | 1,177万円 | 1,792万円 | 2,426万円 | 3,079万円 |
上の表は、年次昇給率1%と3%の職場における年収推移の一例です。
仮に年収600万円を希望している薬剤師の場合、A薬局に転職すればその時点で目標金額を達成できます。しかし、5年以上勤務する意思があるならば、B薬局に転職した方が累計の所得は多くなります。
このように転職を後悔しないためには、自分のキャリアプランを踏まえたうえで年収を考えることが大切です。
転職時の一時的な年収額を重視するのか、長期的に見たときの総支給額を重視するのか、自分の希望条件を明確にしておきましょう。
人間関係や年収など、転職前の想像と実際の働き方の間になぜ乖離が起こってしまうのでしょうか。
図4を見ると、情報収集不足が原因と捉えている薬剤師が多いことがわかります。
とはいえ、求人票から読み取れる情報には限りがあるのも事実。そこで、おすすめしたいのが、クチコミサイトの活用です。
職場の内情について一番詳しいのは、実際にその職場で働いている薬剤師であることは間違いありません。そうした「生の声」を調べることで、より具体的に転職先の職場をイメージしやすくなるはずです。
「薬キャリ 職場ナビ」では、薬剤師による企業へのクチコミ/評価を掲載していますので、情報収集の一環として是非ご利用ください。
自分で情報収集する時間がないという薬剤師は、転職エージェントを通じて情報収集するのも一手。
転職エージェントの利用は情報収集の手間がかからず、忙しい日々を過ごす薬剤師にとって効率的な転職方法です。しかし、図4でコンサルタントの話を鵜呑みにして転職を後悔した薬剤師がいることからも分かるように、活用するにはちょっとしたコツがあるのです。
では、転職エージェントを利用する際のコツとは何でしょうか。
それはずばり、情報ソースを一つに絞らないこと。具体的には、複数の転職エージェントに登録することです。
複数の転職エージェントを利用すれば、それだけ集められる情報量が増えますし、集めた情報の裏付けもとれるようになります。転職活動に必要な情報収集の量と質を高めることができるでしょう。(一度に複数の転職エージェントに登録したい方はこちらをご覧ください)
なお、今回のアンケートにおいて「求人票の見方を理解していなかった」ことが転職失敗の原因と回答した薬剤師は少なかったですが、不安がある方はこちらの記事に目を通しておくことをおすすめします。
これまで転職を失敗したと感じる理由や、失敗の原因について見てきました。では、こうした失敗を防ぎ、転職を成功させるためには何に気をつければいいのでしょうか。
薬キャリと提携している薬剤師専門のベテランコンサルタントにヒアリングし、「転職を成功させるための3ポイント」をまとめました。
転職を失敗したと感じる理由として最も多い「人間関係」。転職前に知ることができる情報には限度はあるものの、有効な手段は職場見学です。調剤室や休憩室の雰囲気を見られるだけでなく、職場によっては実際に働いている薬剤師と話すこともできます。
転職した場合は同僚・上司になる人たちですので、この時点で「反りが合わない」「一緒に働きたくない」と感じたら、人間関係による失敗を未然に防げるはずです。
もちろん、繁忙期など時期やタイミングによっては薬剤師と話す時間をとれないケースもあるので、事前に会社へ交渉する必要があります。転職エージェントを利用している場合は、要望を伝えればそれを踏まえて日程調整をしてくれるため安心です。
転職を成功させるためには、自分が転職先に期待している働き方と、職場の方針が一致していることが大切。転職後にイメージと現場の働き方のギャップに後悔する薬剤師は少なくないですが、多くの場合、失敗の原因は面接時の確認不足です。
たとえば「残業少なめ」の場合、1カ月平均何時間なのか、繁忙期にはどの程度上振れる恐れがあるのか。「在宅医療に注力」の場合、「1日当たりの訪問件数」「訪問先(個人宅なのか施設なのか)」「在宅医やケアマネジャーとの連携体制」はどんな体制なのか。このように、実績や体制を具体的に確認して、自分の想定とギャップがないか把握しておきましょう。
「面接時に聞いていた話と労働条件が違う」と後悔しないためには、まず各種条件が薬剤師側と会社側で漏れなく合意をとれていることが重要です。そして、合意した通りの内容で件、内定通知書と労働条件通知書が明記されているか確認する必要があります。
内定通知書は労働条件通知書と違い労働基準法で内容が定められていないため、会社によって一部項目が省略されていることもあります。稀なケースですが、悪質な会社だと内定通知書と労働条件通知書の記載内容が異なることも。労働条件通知書の不備に気づかず雇用契約を結んでしまうと、その後の条件変更は非常に難しくなるため、漏れのない内定通知書と労働条件通知書を照らし合わせて確認しましょう。
内定通知書に切し記載されていない項目があるときは、漏れのない形で再発行を依頼しましょう。転職エージェントを利用している場合は、コンサルタントに要望を伝えれば代行してもらえます。
転職は精神的にも体力的にも大きく負担がかかる、人生の一大イベントです。
それだけに、ミスマッチは防ぎたいもの
そのためには、
ことが大切です。
「現職よりも好待遇」などの大雑把な理由だけで転職活動を進めることは、ミスマッチの火種になりかねません。
「キャリアプランや希望条件が明確ではない」という薬剤師は、転職エージェントにキャリア相談することから始めてもいいでしょう。
薬キャリでは同時に複数の転職エージェントに登録できるため、前章で触れたように情報収集先の確保という面でもおすすめです。
自身のキャリアプランを定めたうえで、十分な情報収集を行い、後悔のない転職を実現させてください。