この数年で薬剤師の業務や役割が大きく変化しています。 背景にあるのは、厚生労働省が2015年に策定した「患者のための薬局ビジョン」。そのなかで、「対物業務から対人業務へ」という方針のもと、調剤薬局や調剤併設型ドラッグストアは、薬剤師が患者一人ひとりに最適な服薬管理を行うための「かかりつけ機能」と、地域住民の健康を維持・管理する「健康サポート機能」が求められるようになりました。
こうした変化に伴い、薬剤師の転職市場における「市場価値」も変わりつつあります。 今回は、薬剤師が自身の市場価値を高め好条件で転職するためには、どのような経験・スキルが必要になるのか、薬剤師の転職に特化した転職エージェント17社へのアンケート結果をもとにご紹介します。
まずは、「現在、転職に有利に働くスキル・経験」についてみてみましょう。グラフから分かる通り、「管理薬剤師経験」「認定薬剤師資格」「在宅経験」が上位となっています。
厚生労働省の調査によれば、調剤薬局に勤務している薬剤師は全薬剤師の半数以上。高年収転職のコツでも触れましたが、調剤薬局を開設・運営するために不可欠な管理薬剤師経験があると、年収をはじめ有利な条件で転職できる可能性が高まります。
また、2016年度診療報酬改定で新設された「かかりつけ薬剤師」の算定要件となっている研修認定薬剤師資格は高く評価されているようです。とはいえ今後、資格取得者が増えていくことは必至であり、資格自体を転職の強みとできる状況が続くとは限りません。好条件での転職を考えている研修認定薬剤師の方は、早めに転職に動き出すことをおすすめします。
一方で、一見転職の強みとなりそうな「調剤経験」を評価する回答は11.8%と低くなりました。これは調剤経験が軽んじられているというわけではなく、むしろ「好条件で転職したいならば、調剤経験があるのは大前提」という転職エージェントの指摘が目立ちました。
企業側としては、調剤業務は出来て当たり前と考えています。それに加えて、意欲や向上心は持っていて然るべきで、それが管理薬剤師経験や認定資格の有無で問われてきます。
将来的には調剤薬局の募集が減る事が見込まれているものの、それでも現状ニーズが多い事には変わらず、「管理薬剤師経験」「認定薬剤師資格」など、調剤薬局で働くうえでのスキル・経験は不可欠と考えたため。
新しい環境で業務の早期キャッチアップできることが重要です。そのため、調剤のスピード・正確性はもちろん、コミュニケーションスキルや学習意欲も大切です。
では次に、「これからの薬剤師に重視されていくスキル・経験」についてみていきましょう。グラフの通り、「コミュニケーションスキル」を挙げる転職エージェントが大多数となりました。
かかりつけ薬剤師として活躍するには、患者や地域住民の健康相談を傾聴して、適切な表現でアドバイスが不可欠です。また、勤務時間の大部分を調剤室で過ごす薬剤師にとって、同僚との関係を良好に保つためにも「コミュニケーションスキル」は重要といえるでしょう。
1位の「コミュニケーションスキル」とは大差となったものの、転職時には「調剤のスピード・正確性」や「マネジメントスキル」も有利に働くようです。薬剤師国家試験の合格基準変更や薬学部の新設など、将来的に薬剤師数は増加していく見込みであり、それに応じて求人の倍率も高まっていきます。薬剤師の中途採用には即戦力が期待されることが多く、実務的な強みをもっていることは転職にも有利に働きます。
そのほか、かかりつけ薬剤師としての活躍に注目する転職エージェントからは「かかりつけ薬剤師経験」や「認定薬剤師資格」を重視する回答も寄せられました。
かかりつけ薬剤師として活躍するためにはコミュニケーション能力が必要。また、結局薬剤師業務に関してはサービス業だから。
業務は個人ではなくチームで行なっている。また、広いとは言えない空間で長い時間共にいるため、コミュニケーションスキルは今も昔も重要である。
売り手市場下における転職市場の中で、多くの社会常識に欠ける薬剤師が見過ごされてきたという現実がある。その部分の意識改革がないと、今後厳選採用が進む市場において行き場の無い薬剤師が生まれると思われるため。
これまでの転職市場においては、管理薬剤師や在宅業務などの経験が市場価値として高く評価されていました。しかし、患者や地域住民にとって薬局・薬剤師がより身近な存在になることが求められており、今後はこれらに「コミュニケーションスキル」が加わる形となっていきます。
また、現在は“売り手市場”といわれ就職・転職しやすい薬剤師業界ですが、将来的には調剤報酬の引き下げによる企業の経営悪化、薬剤師数の増加などによって、買い手市場に近づいていくことが予想されます。自分の思い描くキャリアデザインを実現するためにも、市場価値を高める努力はより重要になってくるといえるでしょう。