薬剤師の皆さんに仕事や転職についてどのように感じているのかを、エムスリーキャリアがリサーチする独自企画。「年収」「人間関係」「仕事内容」「キャリアアップ」などさまざまな角度から、薬剤師の転職・仕事に関する志向をご紹介していきます。 今回のテーマは「かかりつけ薬剤師」について。 地域包括ケアシステムの構築に向けて、薬剤師の果たすべき役割として示されたのが「かかりつけ薬剤師・薬局」です。「対物業務から対人業務への転換」を合言葉に、国を挙げて普及が進められていますが、実際に現場で働く薬剤師は「かかりつけ」に関する業務をどう捉えているのでしょうか。
かかりつけ薬剤師は、厚生労働省が2015年に発表した「患者のための薬局ビジョン」のなかで、「地域包括ケアシステムの一翼を担い、薬に関して、いつでも気軽に相談できる」存在として定義されました。
かかりつけ薬剤師に求められる役割は次の3点
また、「かかりつけ薬剤師」になるには、下記の要件を満たす必要があります。
当然ながら、新卒をはじめ薬局薬剤師経験が3年未満の薬剤師は(1)を満たせないため、かかりつけ薬剤師を算定できません。また、転職したばかりの薬剤師についても(2)に抵触するため、転職後の1年間はかかりつけ薬剤師として認められません。
十分な調剤経験だけでなく、地域に根ざした薬剤師であることが「かかりつけ薬剤師」には求められているのです。
かかりつけ薬剤師は2016年度診療報酬改定で新設された「かかりつけ薬剤師指導料」「かかりつけ包括管理料」を算定するための必須要件。2017年3月時点で約2万件の薬局が届け出を出しています。2018年度診療報酬改定においても、かかりつけ薬剤師の重要度は高まっており、さらに薬局での取り組みも増えていくと考えられます。
そこで今回は、薬剤師の皆さんが「かかりつけ薬剤師」としての働き方をどのように受け止めているのか調査しました。
かかりつけ薬剤師として実際に働いたことがある薬剤師は約3割。
大多数の薬剤師が、かかりつけ薬剤師として勤務したことがないという結果でした。
かかりつけ薬剤師として働いたことがない理由は、「薬局勤務経験3年未満」で26%、次いで「研修認定薬剤師の取得していない」が20%。「算定要件を満たしたら、かかりつけ薬剤師として働きたい」という意見が主流でした。
一方、「自分の意思で『かかりつけ』に関する点数を算定していない」という薬剤師も13%いました。「これまでも同様のことを無償でやっていたのに、患者の負担額を上げることに抵抗がある」と、かかりつけ機能は果たすが算定はとらないという薬局経営者も一定数いるようです。
前章のように、「研修認定薬剤師の資格をもっていないため、かかりつけ薬剤師として働けない」という薬剤師は少なくありません。そのため、近年では研修認定薬剤師の資格取得を支援する薬局が増えています。
図3は資格取得の自己負担、会社負担についての質問。その結果、約7割の薬剤師が薬局から資格取得の費用補助を受けていることが分かりました。
費用の負担額だけでなく、座学やeラーニングを受講できるなど薬局によって支援制度はさまざま。
研修認定薬剤師の取得を真剣に考えている薬剤師は、こうした教育制度や資格取得支援制度が充実した薬局に転職するのも一手でしょう。
公休日であっても対応せざるを得ない。客人が来ていても、依頼があれば調剤や、在宅へ配達しなければならないのでストレスが溜まる。
こ一度に3人のかかりつけ患者が来局。ほかに薬剤師がいても待たせることになり、また内容も重いため、把握して投薬するまでに時間がかかってしまうことがあった。
「受診せずに頻繁に来局する独身の精神疾患の患者さん。うちの薬局が社会との唯一のつながりであり、おしゃべりも彼の健康のためを思うと無下にできない。とはいえ、受診しない限り処方せんは出ないため、2カ月ほど一銭もいただかず多大な労働時間を費やしているる。
では、実際にかかりつけ薬剤師として活躍している薬剤師は、業務内容についてどのように感じているのでしょうか。
特に負担を感じる業務について質問したところ、「24時間対応」が42%で最多。夜間や休日でも患者対応が求められることは、肉体的にも精神的にも負担を感じる薬剤師が多いようです。
続く「一元的な服薬管理」(19%)や「在宅医療」(16%)についても言えることですが、かかりつけ薬剤師としての機能を十分に発揮するためには、薬局側のサポートが不可欠です。
一元的な服薬管理をサポートするための電子薬歴・電子お薬手帳の導入、在宅訪問のスケジュール管理や移動手段など、薬局の体制整備によって改善されていく要素も少なくないでしょう。
では次に、やりがいについても見ていきましょう。
腎不全、肝不全の在宅患者にクラビットが一日500mgで処方された。検査値から現状500mgでの服用は危険と判断し、調整減量を依頼。しかし、医師から問題ないとの返答があった。検査値の再確認を依頼したところ、250mgの減量指示とともに、「思い込みがあって済まなかった」と謝罪と感謝の言葉をもらった。
休日、患者さんが「いまドラッグストアにいて、OTC薬を購入したいと思っている」と相談の電話がきた。服用している薬を把握しているため、患者さんに合った選択のお手伝いができた。
ランソプラゾールOD錠が水に溶け切らず、経管投与できないと、患者本人及び訪問看護師から相談あり。ガスター細粒へ変更するよう医師へ処方提案した。その後、水に溶けるようになったと感謝の連絡があった。
結果、やりがいを感じるポイントとして最も多く挙がったのは「患者の服薬管理について他の医療職からの信頼を感じたとき」(51%)でした。「在宅医療で患者・患者家族と信頼関係をつくれたとき」(17%)、「深夜・休日に患者対応をして感謝されたとき」(10%)といった意見もみられました。
かかりつけ薬剤師は疑義照会や在宅医療での情報共有など、他の医療職とコミュニケーションをとる機会が多いです。
そんななか、医師や看護師、ケアマネジャーなどから「薬学管理、医薬品のプロ」として信頼されていると感じた時、多くのかかりつけ薬剤師が充実感を得ているようです。
最後に、薬剤師は転職の際に薬局の「かかりつけ機能」をどれくらい重視するのかを調査したところ、6割以上の薬剤師が「かかりつけ機能を重視する」と回答しました。
その理由をまとめたのが、図7です。
結果は、「患者に寄り添った仕事ができるから」という声が圧倒的でした。「対物業務から対人業務への転換」が国を挙げて進められていますが、実際に多くの薬剤師が患者に寄り添った医療を提供したいという思いをもっていることが分かります。
いかがでしたでしょうか。
2016年度より始まったかかりつけ薬剤師は、普及が進んでいるものの、まだ薬剤師の主流な働き方とはいえないようです。求められる役割は多岐に渡っており、業務にかかる負担も決して小さくはありません。しかしながら、その役割を十分に果たしている薬剤師は、医師・看護師からの信頼もあつく、地域医療に欠かせない存在として活躍しています。
国は2025年にはすべての薬局の「かかりつけ化」を掲げています。
「かかりつけ薬剤師」として働くことを考えてこなかった方も、この機会に一度検討してみてはいかがでしょうか。