薬剤師と言うと病院や調剤薬局、ドラッグストアでの勤務が一般的と思われがちです。しかし、実は薬剤師資格を生かして公務員として働くという選択肢もあります。本記事では、薬剤師が公務員として働く場合の仕事内容や職種、メリット・デメリットなどを解説します。
公務員薬剤師は、大きく分けると国家公務員と地方公務員の2種類があります。
国家公務員としての公務員薬剤師は厚生労働省の総合職であり、薬系技術職員として行政や研究を中心とする業務を行います。
また、全国で300名程度と希少ですが、薬剤師が国家公務員として働く場合は「麻薬取締官」という職種もあり、厚生労働省の地方厚生局麻薬取締部に所属します。国家公務員一般職試験(大卒程度)、麻薬取締官の採用試験に合格した後、各種研修を受けて経験を積んでから実際の業務に就くことになります。
地方公務員は、各都道府県が実施する公務員試験に合格した後、配属先が決定されます。配属先には公立病院や薬局、保健所、役所、研究所などがありますが、配属先の希望が尊重されるわけではありません。「病院で働きたい」といった具体的な希望があっても通らない可能性が高いというのは、理解しておくといいでしょう。
ここでは、公務員薬剤師の勤務先・仕事内容などをより詳しくご紹介します。
国家公務員としての公務員薬剤師は総合職採用であり、業務内容は多岐に渡ります。
引用:厚生労働省
医薬品の審査や承認、安全対策などといったいわゆる薬事行政から、食品衛生法に関連するもの、研究開発促進など、所属する課によって扱う領域はさまざまです。中には一般的な薬剤師のイメージからはかけ離れた業務内容もありますが、薬学の知識を生かしてさまざまな仕事を経験したい人にとってはやりがいを感じられるでしょう。
また、国家公務員としての公務員薬剤師は厚生労働省に代表される省庁で働くことになりますが、全国へ異動する可能性もあります。
いくつか具体的な業務内容の例を見てみましょう。
医薬・生活衛生局の総務課の業務内容としては、以下のようなものが挙げられます。
薬事行政の企画・立案を担う同課。薬剤師国家試験の見直しやかかりつけ薬剤師 ・薬局の推進に取り組むなど、薬剤師が活躍できる環境を整えるような仕事がイメージできます。
医薬・生活衛生局にはほかにも、医薬品等の承認・審査や新薬の開発促進など、医療現場が求める医薬品を提供できる仕組みを作る医薬品審査管理課、医療機器の安全対策や実用化のための制度の整備を担う医療機器審査管理課などがあります。
食品基準審査課および食品安全委員会は、食の安全にまつわる業務を担います。
保険局 医療課/医政局 経済課は、医療保険制度にまつわる業務や医薬品等の持続的開発を可能にする環境づくりを担当する部署です。保険局は統計調査も担当しており、政策決定の基礎資料になるような診療報酬・調剤報酬明細書のデータを基にした医療費の動向分析なども行います。
麻薬取締官としての公務員薬剤師は、薬物犯罪の操作や麻薬流通の防止、医療機関への立ち入り検査などが中心の業務であり、一般的な薬剤師のイメージと最もかけ離れた職種と言えるでしょう。
犯罪に関わる仕事である以上危険性も伴うこともありますが、特殊なキャリアを積むことができます。麻薬取締官も国家公務員であるため、勤務地は全国が対象です。
地方公務員としての公務員薬剤師は、配属先によってまったく業務内容が異なります。大きくは病院勤務と行政勤務に分けられ、公立病院で薬剤師として勤務するほか、国家公務員のように行政分野の各部署で働くこともあります。
各市町村が運営する病院から保健所へ異動する、役所から分析・検査センターへ異動するといったことも可能性としてあり得るため、複数の環境で様々なキャリアを築きたい人には向いています。
地方公務員は各都道府県に雇用されているため、転勤の対象は県内のみとなります。
公務員薬剤師には、一般企業に所属する薬剤師とは異なるメリットがあります。
士業の一つである薬剤師は比較的安定した職業です。しかし民間企業に勤める限り、勤務先の経営悪化や閉店などの理由で失業する不安は捨てきれません。調剤薬局の約7割は個人経営ですが、政府による医療費削減の方針や薬価・調剤報酬の引き下げなどの理由から、今後小規模な調剤薬局の利益確保が厳しくなっていく可能性があります。
公務員薬剤師は雇用元が国もしくは地方自治体であることから市場の動きに左右されにくく、安定性が高いのがメリットです。
公務員薬剤師の福利厚生は、民間企業と比較しても手厚いと言えます。たとえば、育児休業については期間を1年と定める企業が多い中、公務員薬剤師は3年取得できます。育児休業明けは時短勤務の制度ももちろん利用できるため、妊娠・出産を経て女性が復職しやすい環境が整っています。
その他、扶養手当や住宅手当といった生活の基本的な部分をサポートする福利厚生が充実。退職金も一般企業より高い傾向があるため、公務員薬剤師の福利厚生に魅力を感じる人は多いようです。
公務員は毎年昇給があるため、長年勤務していれば期間に応じて年収が上がります。
病院や調剤薬局で働く場合と比較すると初年度~数年間は年収が低い傾向がありますが、長期的な目線で見ると安定した昇給を見込めます。
公務員薬剤師にはデメリットとなる部分もあります。
国家公務員になるためには国家総合職の試験に合格する必要がありますが、採用は狭き門であり、厚生労働省の発表によると平成25年度~30年度までの期間で年間5名~9名しか採用されていません。
試験区分 (採用年度) |
25年度 | 26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 30年度 | 31年度 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
薬学系 | 5(2) | 6(0) | 7(2) | 9(2) | 8(3) | 8(3) | 8(5) |
()は女性の採用数
※総合職(化学・生物・薬学)の採用実績
地方公務員の場合には公立病院が直接募集をかけるケースもあり、国家公務員よりも就職しやすい傾向があります。
国家公務員の薬剤師は全国が対象、地方公務員の薬剤師は各都道府県内での転勤となりますが、2~3年程度の期間を目安として転勤があると考えておきましょう。単身者や転勤に抵抗がない人にとってはデメリットとはなりませんが、地域に定住したいと考える人にとってはマイナスと感じるポイントとなります。
公務員薬剤師は副業(アルバイト・パート・受託など)ができません。
調剤薬局やドラッグストアは薬剤師資格を持つ人がいなければ成り立ちませんので、給与・待遇面で条件の良い求人が多くあります。しかし公務員薬剤師は国家公務員法・地方公務員法によって兼業を禁止されているため、どんな形態であっても副業はできません。
ひとつの職場に所属しながら、別の職場でも経験を積んでみたい、仕事の幅を広げてみたい、と考えるタイプの人にとっては、この制限はデメリットになるでしょう。
公務員薬剤師はメリットの大きい職種であり、希望する薬剤師も多くなっています。特に近年は安定志向の人が増加しているとも言われており、求人に対しての倍率は全体的に高いです。
薬キャリではサイトに掲載されている求人以外にも、非公開求人があります。公立病院での地方公務員募集であればタイミングによってはあることもありますが、非常に稀と言えます。
転職エージェントに相談すれば、今までのキャリアや今後やりたいことに合わせて最適な企業を紹介してもらうことができます。公務員薬剤師への転職を希望している場合でも、一度転職エージェントと話すことで、希望が叶う別の道を紹介してもらえることがあります。まずはぜひ相談してみましょう。