京都府民のかかりつけ薬局をめざすゆう薬局
創業65年、京都府民の健康を支えてきた「ゆう薬局」
地域密着型の薬局が考える、真のかかりつけ薬局の使命とは
- 時代や地域によって変わる顧客ニーズを見つけ、応える。その姿勢が企業を成長に導く
- 「かかりつけ」は薬局として当然の役割。地域医療のために教育事業にも注力
- 京都に特化した店舗展開。郊外エリアで出店を進め、在宅ノウハウを蓄積
- 豊富な勉強の機会を活用して、地域が求めるものを自分で考えて実践できる人
時代や地域によって変わる顧客ニーズを見つけ、応える。その姿勢が企業を成長に導く
――1950年の設立以来、京都に特化して薬局事業を続けられています。「ゆう薬局」の企業理念、事業方針について教えてください。
われわれのコーポレートスローガンは「明日を、つなぐ」。地域の人々が安心して暮らせる医療を未来につなげるため、薬局として地域医療に貢献するという方針です。そのための行動指針として掲げているのが3つのC「チャンス(chance)」「チェンジ(change)」「チャレンジ(challenge)」。チャンスを見つけてチャレンジし、チェンジし続けるという意味です。時代や地域が変われば、必要となる医療も変わります。新たな課題を好機ととらえて果敢に挑戦し、患者さまに最適な医療サービスを提供すべく変化し続けること――それがゆう薬局が65年間、変わらずにやり続けてきたことです。
基本的に、私は店舗規模での細かい施策には口出ししていません。細かい指示を出さないからこそ、従業員一人ひとりが自主的に考えて行動する、という風土が形成されているように思います。もちろん何でもやっていいわけではなく、行動の基準は「地域に求められているか否か」。すべての施策は「地域に住む人々のため」であることが大前提です。薬剤師が「地域に求められていること」を考えて行動すると、地域の人々は薬剤師に期待を寄せるようになります。すると、その期待に応えようと、薬剤師は「地域にとって何が必要か」をもっと深く考えるようになります。その積み重ねが、地域住民との信頼関係を構築するのです。
先日、ある店舗に市民講座での講演依頼がありました。その大役を任されたのが入社2年目の社員。大勢の前で講演することは、彼にとって大きなチャレンジだったはずです。しかし、「地域の人たちが求めていることだから」と、必死に準備を整え、講演を行いました。その結果、受講者から「また来て話をしてほしい」とリクエストされるほど、講演の評判は上々。これを受けて彼もさらにやる気になり、もっと地域の人々の役に立つ講演をしようと、休日返上で一所懸命勉強をしています。「3つのC」を実行し、地域との信頼関係を築きはじめた最近の好例です。
3つのCの中でも特に重視しているのが「チェンジ」です。成長とは変わることであり、企業も従業員も成長するには変化しなければなりません。変わらないことは、維持ではなく、言ってしまえば退化。ゆう薬局が他店との差別化を進め、地域での存在価値を高めるには「変わり続けること」がもっとも大切だと考えています。
「かかりつけ」は薬局として当然の役割。地域医療のために教育事業にも注力
――「変化」という点では、2016年度の診療報酬改定により薬局の運営面ではどのような変化がありましたか。今回、「かかりつけ薬剤師指導料」と「かかりつけ薬剤師包括管理料」が新設されましたが、「かかりつけ薬局・薬剤師」として新たな取り組みなど行なっているのでしょうか。
「ゆう薬局」では、創業当初から地域住民にとっての「かかりつけ薬局」をめざしてきました。自分の薬局薬剤師としてのDNAは最初からそこにあったと言っても過言ではありません。ですから、かかりつけ薬局・薬剤師制度がスタートしたといっても、薬局運営はこれまでと何ら変わりないですし、意気込んで「かかりつけ薬局を目指す」必要もありません。むしろ、真のかかりつけ薬局であるためには、診療報酬改定にある算定要件を満たしているだけでは不十分だと考えています。
かかりつけ薬局とは「地域住民の健康づくり」に積極的に関与している薬局のことです。しかし、ひと言に「健康づくり」といってもそのニーズは地域によって異なりますから、それぞれのニーズに合わせた薬局であるべきです。今年の7月15日に本格稼働した「いきいきオアシス日吉」は、そうした地域ニーズを店づくりに反映した新店です。日吉は過疎化が進み、高齢者が多い地域。そこで、薬局にコンビニエンスストアの「ローソン」と、福祉団体と共同で運営するコミュニティスペース、そして明治国際医療大学附属病院が運営する訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所を併設し、過疎地域の暮らしを支える施設としたのです。オープン初日には、骨密度検査などを体験できるイベント「町の保健室」を開催。多くの地元住民の方で大盛況となり、早々に手ごたえを感じています。
また、地域の健康づくりに貢献するという観点から、「教育」にも力を入れています。それが、京都府立医科大学の寄付講座「在宅チーム医療推進学講座」です。京都府医師会、京都府薬剤師会とも連携し、2013年に立ち上げました。薬局薬剤師だけ、医師だけでは地域住民の健康を支えることはできません。「在宅チーム医療推進学講座」は、地域に密着し、薬剤師が医師や看護師などとどのように連携して在宅医療を進めていけばいいのかを考える講座。これからの医療を担っていく学生へ教育の場を提供することも、地域住民の健康づくりに必要なことだと信じています。
――教育については、1998年に岐阜薬科大学に付属薬局を開局されています。最近は、貴社の薬局に同大学の教員が研修にくることもあるとうかがいました。
はい。学問として外から薬局経営を「知っている」つもりになるのではなく、実際に現場を「見て、知る」ことが、薬学教育にとっても有益だと考えたからです。
この付属薬局は実務実習の場として活用していましたが、やはり、大学病院付属の薬局と一般的な薬局とは、業務も役割もまったく異なります。そして、これからの薬剤師には、後者の薬局でかかりつけ薬剤師として活躍することが求められています。
そこで、薬科大学の教員にゆう薬局で実際に働いてもらい、薬学教育の参考にしてもらうと考えました。研修に参加した教員からは「地域包括ケアでは、地域の特性や多職種の専門性を理解することの重要性を学生にも伝えたい」「岐阜薬科大学附属薬局における『かかりつけ』ならびに『在宅』の業務について、実施可能な形態を検討したい」と感想をいただいています。
――地域密着の薬局として、重要性が高まっているのが在宅医療です。貴社の在宅医療は地域ごとに取り組み方針を変えているのがユニークですね。
地域ごとに住民のニーズが異なるのですから、取り組みを変えるのは当然の結果です。例えば、京都市内には大学病院など急性期医療を提供している病院が多くあります。こうした地域では、がんや難病などの高度医療に対応するため、薬局にもクリーンベンチを設置して、急性期医療に対応できるような設備を整えています。
一方、高齢化が進んでいる北部の地域では、医療、介護、福祉をセットで考える必要があります。医師や看護師、ケアマネジャーなど多職種とのコミュニケーションの場を多く設けたり、地域のプラットフォームとして行政とともに取り組んだり、と京都市内とは異なるアプローチを行なっています。
――これからは高齢地域が増えると思いますが、薬局が果たす役割も変わっていくのでしょうか。
宅をはじめ地域包括ケアシステムを進めるなかで問題となるのが、多職種が連携した取り組みにおいて、誰が牽引するのかということ。先ほどご紹介した「いきいきオアシス日吉」は、薬局が牽引して地域の健康をサポートしようという新たなチャレンジです。高齢者の方に「病気予防に運動をしましょう!」と声をかけても、「もう年だから無理だよ」と言って運動しない方がほとんどでしょう。でも、面白そうな店がオープンしたと聞けば、「昼ごはんを食べに行くついでに行ってみよう」とか「コミュニティハウスがあるから、ちょっと寄ってみよう」と自然に外出するようになるはずです。薬局が地域住民の日常に溶け込むことで、健康をサポートしたいと考えています。
京都に特化した店舗展開。郊外エリアで出店を進め、在宅ノウハウを蓄積
――現在ある78店舗のほとんどが京都府内での展開です。今後、府外への出店はお考えですか? 出店計画について教えてください。
目下、京都府以外に出店する計画はありません。実は20年ほど前、規模拡大のために他府県での出店を試みたことがあったのですが、馴染みのない土地で患者さまとの間に信頼関係を築くのはかなり時間がかかるということを痛感しました。医薬協業を考えたとき、京都でやるべきことはまだまだたくさんあります。京都で生まれた薬局として、今後も京都の方たちの健康に寄与していくつもりです。
薬局は、基本的に診療所からのご依頼に応えるかたちで出店するスタイルです。とはいえ、すべてのご依頼に応えるわけではなく、その地域全体での需要を考えて出店するか否かを判断しています。しばらくは、在宅医療のニーズが高い郊外を中心に出店していくつもりで、在宅医療における幅広いケーススタディを積んでノウハウを蓄積する考えです。そして、2025年に向けて京都市内でも増えていくであろう在宅医療ニーズに対応していきたいと思っています。
豊富な勉強の機会を活用して、地域が求めるものを自分で考えて実践できる人
――京都に特化し、かかりつけ薬局として地域住民のニーズに応えていく、という御社の方針がよく分かりました。そうした事業方針のもと、求める薬剤師像を教えてください。
地域が求めるものは何かを自分で考え、実行できる人です。
何が求められているのか、何をすれば喜ばれるのか、最初から答えがわかっている人はいません。患者さまを観察し、考えて実行して、その反応を見て、再度考えてを繰り返す中で、患者さまや地域が求めるものが徐々に分かってくるものなのです。
もちろん患者さまのニーズすべてに応えようとすると、薬剤師本人も身が持ちません。その時は「関わる者がみんな幸せになれるか?」を基準に判断するよう伝えています。患者さまだけでなく、薬剤師、医師、看護師、誰か一人が犠牲になるような施策では継続できません。地域医療は1回1回で完結するものではなく、長く続くもの。ですから、大切なのは継続することなのです。関わる人たちが無理なく継続できるかたちで、できるだけ患者さまの要望に応えていく、そのための工夫や努力をできる人を求めています。
――薬剤師をサポートするための研修制度はどのようなものがあるのでしょうか。
現在、薬剤師教育のバックアップに力を入れているところです。新卒社員、若手・中堅社員、管理職など、年齢や役職別に研修システムを整えています。若手・中堅社員向けには、薬剤師基礎研修、保険・調剤業務研修の他、eラーニング制度や学術大会への参加支援も行っています。さらに、産休や育休から復帰する女性社員をサポートするため、調剤報酬改定の内容や日常業務のルールなど、基本的な内容を網羅した復職支援研修も用意。このおかげか、育休からの復帰率は100%を維持しています。
また、研修の企画・運営は、現場の薬剤師主導で行っています。薬剤師が研修の企画・運営を行うからこそ、実務に直結した分かりやすい内容になっていると思います。
こうした研修制度を整えているのも、すべて地域の方々の健康をサポートするため。どうすれば地域医療に貢献できるか、どうすれば真のかかりつけ薬剤師になれるか、自身で考えてチャレンジし、変化できる薬剤師の方には、大いに活躍いただける環境でしょう。そのための舞台は用意しています。私たちとともに、京都府民のかかりつけ薬局・薬剤師をめざしましょう。