薬剤師の転職市場は、これまで長らく”売り手市場”と言われてきました。 売り手市場とは、求人数に対して薬剤師数が不足しており、企業・医療機関は好条件を提示しないと薬剤師が集まらない状態のこと。薬剤師は多くの企業から内定を獲得しやすく、条件の良い転職先を選ぶ余裕がありました。 しかし、近年は薬局薬剤師数の増加率が処方箋受付枚数の増加率を上回るなど需給バランスが変わり、徐々に企業優位な”買い手市場化”が進んでいました。そして、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で新生活様式による外出自粛や受診控えが起こり、多くの企業・医療機関の経営が悪化しました。 はたして2020年の薬剤師転職市場はどんな影響を受けたのでしょうか。そして、今後の転職市場はどう変化していくのでしょうか。 今回は「薬キャリ」提携の転職エージェント16社に、2020年の転職市場の振り返りと2021年の転職市場動向についてアンケートを実施しました。早速、各社の回答を見ていきましょう。
目次
コロナ禍の転職市場について、紹介会社の62.5%が「企業優位」と回答。「どちらかと言えば企業優位」を合わせると、 87.5%の転職エージェントが企業優位傾向と回答しました。
【新型コロナウイルス感染拡大後の薬剤師の転職市場をどう捉えていますか?】
ほとんどの転職エージェントは薬剤師の転職市場について「企業優位」と認識していますが、当事者の薬剤師はどのように考えているのでしょうか。
下のグラフの通り、転職エージェントに登録する薬剤師の認識について、4割強の転職エージェントが「薬剤師優位だと考えている薬剤師が多い」と回答しました。
転職難易度が低いと考えている薬剤師はまだまだ多いと言えそうです。
【新型コロナウイルス感染拡大後の、薬剤師求職者の転職市場に対する印象を教えてください】
次は年齢別の転職難易度について見てみましょう。2020年の転職市場では、20代、30代では「低い」「どちらかと言えば低い」が過半数ですが、40代よりも上の年代は「高い」「どちらかと言えば高い」という回答が目立ちます。なかでも、50代、60代は「高い」の割合が多数を占めました。
【各年代の転職難易度を教えてください】
40代以降の転職難易度が高い要因としては、「少ない求人に薬剤師が殺到しており、企業が若い人材を選べる」「ベテランは人件費が高いので採用控えが起こっている」などの意見がありました。
スキル・経験が豊富なベテラン薬剤師はひと昔前ならば引く手あまたでしたが、現在は年収の高さから敬遠されることがあるようです。年収アップは主流な転職理由のひとつですが、高望みすると優秀な人材でも転職しにくい状況と言えそうです。求職地域の年収相場や自身の市場価値について正しく把握したうえで、自分も企業も納得できる落とし所を見つける必要があります。こうした調査を一人でこなすのは限界があるため、転職エージェントを利用すると良いでしょう。
次は、業界ごとの転職について掘り下げていきましょう。
下記のグラフは、新型コロナウイルス感染拡大前後での求人数の変化についての回答結果です。
【新型コロナウイルス感染拡大後の、各業界での求人数の変化を教えてください】
いずれの業界でも「大きく減少」もしくは「やや減少」の回答が過半数を占めていますが、特に調剤薬局業界について深刻な求人数の減少がみられているようです。
一方、病院業界は他に比べて「変わらない」の回答が多いですが、これはもともとの求人数の差による違いでしょう。たとえば薬キャリには、薬局の求人数は約2万1500件ありますが、病院の求人数は約1700件です(2020年12月時点)。病院はそもそも求人数が少ないため、変化の割合が小さかったと言えそうです。
転職難易度についても、すべての業界で「高い」「どちらかと言えば高い」の回答が過半数を占めました。
【新型コロナウイルス感染拡大後の、各業界での転職難易度を教えてください】
業界別の転職難易度については、各転職エージェントの事業展開地域や得意業界によって認識に細かい違いが見られたものの、全体としては調剤薬局の採用控えを指摘する内容が目立ちました。
患者の受診控えによる処方箋受付枚数の減少が調剤薬局業界に与えた影響の大きさが、これらのコメントからも感じられます。ドラッグストア業界ではインバウンド需要が激減して打撃を受けた企業がある一方、日用品の品揃えが豊富ないわゆる「メガドラッグストア」を展開する企業はコロナ禍の“巣ごもり需要”を追い風に売上を大きく伸ばし、求人が増えた地域があるようです。
病院業界においても、患者一人当たりの入院日数が長い慢性期病院などは比較的経営への打撃が少なく、一定数の求人が出ているとの意見が寄せられました。
2021年の転職市場の展望については、企業優位が進むとの回答が75%を占めています。
薬剤師優位に傾くと回答した企業がいなかったことから、転職難易度が下がる可能性は低そうです。
【2021年の薬剤師の転職市場はどう変化するとお考えですか?】
企業優位の転職市場が続く、もしくは加速する理由としては、コロナ禍が続くという点以外にも「0402通知に伴う非薬剤師の雇用が増加」「厳しい診療報酬改定の影響」などが挙げられました。
転職エージェントの予測する通り、今後薬剤師の転職市場が企業優位により傾いていくとしたら、薬剤師の転職難易度はさらに高くなっていきます。
希望通りの転職を叶えるためには、企業にとって市場価値が高い薬剤師になる必要があると言えるでしょう。
では、どんな薬剤師が「市場価値が高い」のでしょうか。転職エージェントのコメントを見てみましょう。
多くの転職エージェントが評価しているスキル・経験は「在宅医療」「かかりつけ機能」でした。厚生労働省が「対物業務から対人業務への転換」を掲げて久しいですが、対人業務を担えることの重要性はいっそう高まっていくと言えそうです。
そのほか、「成長意欲」「語学力」「専門資格」なども強みとして挙げられました。
冒頭で述べたように、薬剤師の転職市場は長らく売り手市場が続いていたため、転職について甘い見通しをもっている薬剤師は少なくありません。
しかし、薬剤師専門の転職支援を続けてきた転職エージェント各社が、「薬剤師優位であった時代の価値観のままでは内定獲得は難しい」と口をそろえています。薬剤師が充足している企業・医療機関が増えている以上、希望を叶えて転職するためには市場価値の高い「選ばれる薬剤師」になる必要があるでしょう。
市場価値を高める要素としては、かかりつけ業務や在宅医療に関する経験がいっそう重要になっています。自身のスキル・経験を見つめ直し、不足があるようならば、なるべく早めに転職エージェントに相談してください。
一人ひとりのキャリアプランを踏まえて、「市場価値が高い薬剤師」になるための最適な提案をしてくれるはずです。