初めまして。ドラッグストアと一般用医薬品(以下、OTC医薬品)をこよなく愛する鶴見健です。連載を通して身近な症状を例に、「薬剤師がお客様にOTC医薬品をすすめる時のコツ」についてご紹介します。第2回は「胃腸の痛みを訴える患者さんにはどう対処するべきか」です。前編として「胃(腹痛)」、後編として「腸(便秘・下痢)」についてお話しします。

季節の変わり目に胃腸の不調が出る

「胃腸」は頭痛と同様に年間を通して不調を訴える方が多くいます。特に季節の変わり目と気温が高い日はそういったお客様が急増。今年の4月~5月は、日中と夜間の気温差が激しかったこと、さらに夏は、酷暑となり室内外の気温差が激しかったことが続き、例年に比べて不調を訴える方が増えました。原因の多くは、自律神経バランスの崩壊と腸管免疫の低下ですが、中には異なるケースもあります。詳しく見ていきましょう。

主な腹痛の種類と原因

痛みの種類は「内臓痛」「体性痛」「関連痛」の大きく3つに分けられます。特に多いのは内臓痛で、みぞおちやへその周りの痛みとして認識されることがあります。しかし、心臓の疾患にも関わらず、「お腹の痛み」と感じるケースがあるように、「痛みの部位」と「臓器」に因果関係がない場合もあるので注意が必要です。

◆内臓痛

「内臓痛」はお腹の中心部で左右対象に起こります。管腔臓器の伸縮や、痙攣による痛みで、差し込むような鈍い痛みも間欠的に起こります。痛みは歩くと治まることが多く、「重苦しい鈍痛」や「締め付けられるような痛み」などと表現されることもあります。対処薬として有効なのは、鎮痙剤(ブスコパンA錠、ブスコパンMカプセル)です。

◆体性痛

「体性痛」は、腹膜の刺激による突き刺すような鋭い痛みで、「内臓痛」より強く、多くの場合、30分以上続きます。また、病気のある臓器の近くに痛みが集中し、身体を動かしたり、咳をしたりするとさらに痛みます。鎮痙剤は効かず、NSAIDsという消炎鎮痛薬(ロキソニンなど)で痛みを和らげることができます。急性腹症として外科手術の適応となることも少なくありません。

◆関連痛

「関連痛」は、病気のある臓器から離れた場所に発生する痛みです。これは「内臓痛」の刺激が脊髄に伝わり、脊髄にある知覚神経が他の部位の知覚神経に痛みを伝達させ、その神経の末端が身体の表面に痛みを生じさせることで起きます。それゆえ、誤った診断をしやすいので、注意が必要です。
例えば、胆嚢炎、狭心症、心筋梗塞、肋骨の骨折や肋軟骨炎などの他、若い女性に多いクラミジア感染症が疑われます。その他、肺炎や胸膜炎により上腹部が痛むこともあるので、胃や十二指腸の病気とも間違われる場合もあります。

腹部は臓器が多いので、症状(痛み)による診断で原因を特定するのは難しい場合があります。しかし、痛みの部位から疾患をある程度絞り込むことは可能です。以下に、痛みの部位と該当する臓器、疑われる疾患について記しました。

【痛みの部位と疑われる疾患】

1.心窩部(みぞおち)・・・胃、十二指腸、胆嚢、膵臓、食道、横行結腸、大動脈、心臓など

■原因疾患:胃潰瘍、急性胃炎、アニサキス症、胃がん、機能性ディスペプシア、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、胆石胆嚢炎、総胆管結石、虫垂炎(初期)、子宮附属器炎、狭心症、心筋梗塞など。

骨盤内疾患である「虫垂炎」や「子宮附属器炎」は、心窩部痛から発症することもあります。また、「心筋梗塞」など心臓の病気でも、心窩部痛として症状が出る場合があります。

2.右上腹部・・・肝臓、腎臓、十二指腸、胆嚢、肺など

■原因疾患:胆石胆嚢炎、十二指腸潰瘍、尿管結石、肝周囲炎、急性肝炎、胸膜炎など。

胆石胆嚢炎では、胆石のない無胆石胆嚢炎の場合、重症化することがあるので注意が必要です。原因は、外科的な大手術、重症重度の火傷、長時間の絶食などです。小児の場合はウィルス感染が原因で起こる場合があります。

3.左上腹部・・・胃、膵臓、脾臓、腎臓、肺など

■原因疾患:胃潰瘍、胃炎、急性膵炎、尿管結石、胸膜炎など。

一般的に膵炎の痛みは食事をすると強まり、絶食すると弱くなります。急性膵炎は胆石症かアルコールが関係することも多いと言われています。

4.臍周囲・・・胃、十二指腸、小腸、大腸、胆管、膵臓、子宮、卵巣、大動脈など

■原因疾患:胃潰瘍、胃炎、腸閉塞、急性膵炎、総胆管結石、腹部大動脈瘤、上腸間膜動脈血栓症など。

5.側腹部・・・大腸、小腸、腎臓、尿管など

■原因疾患:尿管結石、虚血性腸炎、腎盂腎炎、腎梗塞など。

虚血性腸炎は下行結腸に多いので、左側腹部に痛みが出現します。

6.下腹部・・・大腸、小腸、子宮、卵巣、尿管、膀胱など

■原因疾患:虫垂炎、大腸憩室炎、急性腸炎、便秘、大腸がん、卵管炎・卵巣嚢腫茎捻転などの婦人科疾患、流産・子宮外妊娠、膀胱炎、鼠径ヘルニア嵌頓、過敏性腸症候群など。

妊婦などは虫垂の場所が移動している場合もあり、右下腹部が痛むとは限らなので注意が必要です。大腸憩室の好発部位は上行結腸とS状結腸なので「大腸憩室炎」は下腹部全体に痛みが出現します。右下腹部の「大腸憩室炎」は「虫垂炎」と症状が似ているので、鑑別が困難なことも少なくありません。

7.背部・・・膵臓、大動脈(中心付近)、腎臓(右背部、左背部側)

■原因疾患:急性膵炎、膵臓がん、尿管結石、腎梗塞、腹部大動脈瘤、その他脊椎や筋肉に由来する整形外科疾患。

膵臓や腎臓は後腹膜という背中側にある臓器なので背中の痛みを伴うことがよくあります。
また、脊椎や筋肉など整形外科関連による痛みの可能性もあります。

お客様へのアプローチ方法

ドラッグストアや薬局で胃腸の原因疾患を診断することはできません。しかし、お客様に対するアプローチとして、症状を詳しく聞くことで対処できる場合もあります。

◆薬剤師からお客様への質問一覧

1.不調(痛み)の場所は「みぞおち(心窩部)」ですか「へそ回り」ですか?
2.痛みが起こるのは、食前ですか、食後ですか?
3.刺すような痛みですか?少し重い感じの痛みですか?
4.明け方に背中が痛くなりますか?
5.食欲はありますか?

これら5つの質問をすることで、腹痛の原因をある程度見極め、適切なOTC医薬品をすすめることができます。会話に余裕があれば痛みが悪化・軽減する要素(食事<脂肪の多い食べ物など>、運動、飲酒、月経)についても聞いておきましょう。

1.不調(痛み)の場所は「みぞおち(心窩部)」ですか「へそ回り」ですか?

1は「胃」か「腸」の不調を大別するための質問です。お客様は「お腹が痛い」と訴えてくることが多いので、まずは大まかに部位を特定します。「みぞおち(心窩部)」付近であれば胃の不調である可能性が高く、「へそ回り」と答えれば腸の不調である可能性が考えられます。その後、前述した腹痛の3種類を聞いてみましょう。なお、腸の不調の対処薬については後編をご覧ください。

2.痛みの起こり方は、食前ですか、食後ですか?
3.刺すような痛みですか?少し重い感じの痛みですか?

2と3は胃酸過多か胃機能低下を探る質問です。
食前に起こる、刺すような痛みであれば、胃酸過多の可能性があります。例えば、H2ブロッカー ガスター10(シメチジン)、アシノンZ(ニザチジン)、アバロンZ(ラニチジン)や抗ムスカリン作用のピレンゼピン塩酸塩配合 ガストールなどの攻撃因子を抑える薬や、イノセアバランス(トロキシピド)、新センロック(セトラキサート)、セルベール(テプレノン)など、防御因子増強で対応する薬をすすめると良いでしょう。また、内臓痛に適した鎮痙剤やブスコパンも、対処療法として良いでしょう。
食後に起こる痛みで、胃重や膨満感を伴う場合は「食べ過ぎ」です。胃の動きが低下して消化が進まないことがありますので、消化剤配合の胃薬をおすすめすると良いでしょう。消化剤は、ジアスターゼ、プロザイム、ニューラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、複合酵素(ビオジアスターゼ、タカジアスターゼ)などがあり、各メーカーによって組み合わせや配合比率を変えて販売しています。例えばキャベジンコーワ、第一三共胃腸薬などが挙げられます。

4.明け方に背中が痛くなりますか?

4はストレス性胃炎や胃酸過多を探る質問です。明け方は、副交感神経優位な時間帯であることに加え、胃が空の時間帯のため胃酸分泌も多いので、痛みが出やすいと言われています。就寝前にH2ブロッカーや胃酸中和剤を服用するのが良いでしょう。

5.食欲はありますか?

5の「食欲がない」訴えには、胃の動きを促進、調律することを目的に、タナベ胃腸薬≪調律≫(トリメブチンマレイン酸塩)をすすめると良いかもしれません。セレキノン(トリメブチン)は少量で消化管機能が活発になります。大量に投与すると消化管機能が抑制されるので、過敏性腸症候群における下痢や腹痛改善時に処方される場合もある薬です。
その他にも、漢方薬をすすめるのも良いでしょう。証を判断しながら選んでみてください。

【安中散】
安中散(桂皮、延胡索(えんごさく)、牡蛎(ぼれい)、茴香(ういきょう)、甘草、縮砂(しゅくしゃ)、良姜(りょうきょう)を組み合わせたものです。
普段から胃の弱い人がお腹を冷やして胃痛を感じるときや、慢性の胃痛を伴う胃炎、胃酸過多症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などに使われます。これらの症状があり、虚弱体質で冷え症の人には試してみると良いでしょう。

【四・六君子湯】
四君子湯は、人参、白朮、茯苓、甘草、生姜、大棗を組み合わせたもので、その四君子湯に半夏と陳皮を加えたのが六君子湯です。いずれも、慢性の胃腸炎、消化性潰瘍、食欲不振などの対処薬として広く使われており、働きの弱い胃を丈夫にして、体全体を元気にします。
主に、胃腸の病気を持った虚弱傾向の人に使われる薬です。特に、食べ過ぎるとすぐに胃がもたれる人、疲れやすくてやせ気味の人に適しています。

四君子:顔色が悪い、食欲不振、軟便や下痢などの病態に。
六君子:疲れやすい、食欲不振、下痢や軟便、胸やけ、吐き気、悪心、咳、薄くて多い痰などに。

【補中益気湯】
四君子湯から茯苓を除き、黄耆、当帰、陳皮、升麻、柴胡を加えたものが「補中益気湯」となります。その名のとおり、「からだの中を補い、気を益す薬(湯)」です。中医学の教科書である「脾胃論」によると、補中益気湯は「気虚下陥(きょきかげん)」の状態に有効とされています。下陥はその字の通り、下に陥ちる、下がることを意味しています。胃下垂のような内臓下垂には西洋薬では打つ手はありませんが、漢方なら補中益気湯で対処できる場合があります。さらに、疲れると熱が出る、夕方になると熱が出る方にもおすすめです。

補中益気湯:疲労感や脱力感、病後の回復や疲労時の発熱などのほか、頭痛、めまい、子宮下垂、胃下垂、脱肛、多汗症、わきが、不正性器出血、流産、痔、低血圧症、自汗などにも効果が期待できます。

薬の飲み合わせに注意する

健康管理の一環として胃薬を毎日服用する患者様が多くいらっしゃると思いますが、他の薬と併用する場合には注意が必要です。
例えば、重曹の含有量が多い胃薬を常用する高血圧症の方は、塩分の摂取を控えることに加え、炭酸水素ナトリウム(重曹)の少ない胃薬を選びましょう。炭酸水素ナトリウムはイオン化するとNaイオンが大量に発生し、血圧上昇に寄与する可能性があるからです。ビタミンC製剤も同様です。商品によってはアスコルビン酸ナトリウムになっている商品があります。最近は、ナトリウムをカルシウムに変換している製剤もあるので、そういった商品をおすすめしてください。

このように、痛む部位と発生原因を総合的に考察すれば、OTC医薬品でも対応できる場合があります。受診勧奨も大切ですが、健康寿命を延ばすサポートは薬剤師ができることではないでしょうか。薬だけでなく病態生理から薬剤選択まで視野を広げて対応してみましょう。

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専門家プロフィール

鶴見 健

鶴見 健(つるみ けん)

徳島文理大学大学院 薬学研究科薬学専攻 博士前期課程修了(薬学修士) 神奈川県生まれの、関西大好き人間。大学院時代にアルバイトでドラッグストアを経験し、その難しさと奥深さに感銘し、地域医療のあるべき姿をドラッグストアに求め就職。販売に従事する傍ら、バイヤー・販促・教育・採用など多岐にわたる職種を経験。