将来の医療制度を考えるうえで後発医薬品(ジェネリック医薬品)の普及率アップは避けては通れない課題です。今連載では、後発医薬品の現状と課題について日本ジェネリック医薬品学会理事の漆畑稔先生にうかがいます。
第2回では、アメリカ、フランスでの後発医薬品使用促進の状況に少しだけ触れました。いずれも医療や医薬品の先進国であり、かつ後発医薬品使用促進の先進国です。今回はそれら”医療先進国”には及びませんが、海外事例としてロシアとニュージーランドの医療、後発医薬品事情をお伝えします。

ロシア

日本に限らず、世界のどこでも自国の医療の充実は今も昔も大きな課題だ。ロシアでは、男性の平均寿命は60歳に届いていない。国民はその理由を「ウオッカの飲み過ぎと寒さのため」と言うが、それらに加えて不十分な医療提供体制や医薬品の不足も、平均寿命の低さの理由として考えられる。
そこでプーチン政権は、平均寿命を現在より2歳伸ばすことを重要な政策目標の一つに掲げているのだ。男女とも平均寿命が80歳を超えている我が国からすると驚きである。

現在、ロシアが平均寿命を延ばすために取り組んでいるのが医療の充実だ。その具体的な施策が「医療アクセスの改善」と「医薬品供給の充実」である。とはいえ、ロシアの広大な国土では、医療アクセスの改善が用意でないことは想像に難くない。それに、一部の都市部を除いて人口密度が低いこともあり、国内では慢性的に医薬品不足の状態で、さらに偽薬も多いという。

自国に製薬産業が無いロシアは、医薬品をおもにECからの輸入に頼っているが、「市場」は低所得者向けの安価な後発医薬品と富裕層向けの高価な新薬とに二極化している。
しかも、利益の薄い後発医薬品に対しては、一部のボリューム製品を除いて、医薬品流通業者からの関心は小さい。しかし前述の施策から、新薬市場も後発医薬品市場もともに著しい拡大を果たしている。後発医薬品使用の促進とまではいかないが、ロシアの医療の充実において、後発医薬品は重要な役割を果たす可能性が高いと私は考えている。

ニュージーランド

ニュージーランドでは、自国の医療に必要な医薬品は政府機関が製薬企業と交渉して一括購入する。さらに、政府は購入価格より安い価格で医薬品を国民に提供するための補助の仕組みを設けている。したがって、国が負担する小さな後発医薬品の割合は高い。先進各国の製薬企業にとっては、医薬品納入価は他社との価格競争により安価になり、一方で新薬は高価な故に売り難いという状況になっているため、アメリカの製薬企業を中心に少なからず不満が出ている。しかし当然のことながら、国民は医薬品の費用負担が少なくてすむため評判は良い。

安価な後発医薬品だからこそ、予算が十分でなくても医療の充実を実現できる

後発医薬品はその安い価格ゆえに、医療に十分な費用を充てられない国にとっては、その医療確保のために大変役立っている。また、後発医薬品は、同成分の医薬品として新薬からの使用経験期間が長く、絶対的な使用量も多い。使用経験が豊富なことはデータの豊富さと使用の際の安心感にもつながる。
医療の充実に反対する国などもちろん無いが、同時に莫大な費用負担は、各国の財政を大きく圧迫していることも事実だ。だからこそ医療の質を低下させることなく、費用を下げられる後発医薬品の使用は世界で共通の課題となっている。

そして、後発医薬品使用促進の役割は、薬剤師が担っていることも世界共通だ。
世界に類をみない高齢化により、現役世代の税と保険料の著しい負担増が避けられない日本であれば、なおさらである。
2014年12月30日に閣議決定された「税制改革大綱」では、医療費の自然増をも社会保障費の適正化の対象となった。こうなると必要な医療までも費用の面から抑制される可能性があり得る。それを避けるための効果的な方法が、後発医薬品の使用促進だ。
社会保障費の適正化の前提として、医療費などの社会保障費は自然増までも抑制することとしている。当然のことながら、これまでは自然増は止むを得ないとしていた。にも関わらずである。なお、高齢化を背景に有病率が増加するなど、医療費は年間約1兆円の自然増が見込まれている。
高齢者の一部負担金の特例についても17年を目途に廃止することになる。医療を抑制せず予算を抑制できる唯一の手段が後発医薬品だとすれば、その使用は促進せざるをえない。
医療人として医師や薬剤師らは、これにどう向き合うのか、考えてほしい。

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専門家プロフィール

漆畑 稔

漆畑 稔(うるしばた みのる)

日本ジェネリック医薬品学会理事。他に、日本薬剤師会相談役や日本医薬総合研究所取締役も務める。(有)ユーアイ薬局を開設後、静岡市薬剤師会理事や副会長、日本薬剤師会常務理事、副会長を歴任し、厚生労働省 中央社会保険医療協議会委員、社会保障審議会臨時委員も務めた。

◆主な著書
『薬剤師の疑義照会』『薬剤師と医療保険』(ともにエルゼビア・ジャパン)など