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北米現地レポート2北米現地レポート1

日本で調剤薬局、ドラッグストアでの薬剤師勤務を経て、その後カナダの薬局でテクニシャンとして経験を積んだ五味さやかさん。その経験をもとに、現在お住まいのカナダ・ブリティッシュコロンビア州から、北米の薬剤師・テクニシャン事情をレポートしていただきます。

日本でも是非が問われる「テクニシャン」。カナダの事情は?

ヨーロッパや北米などで、薬剤師の片腕として活躍しているのが「Pharmacy Technician(以下、テクニシャン)」。カナダでもその職種自体は以前からありましたが、「Pharmacy Technician」として法のもとで登録制度が確立し、「Pharmacy Assistant」と区別されるようになったのは、まだここ数十年の話。私が住んでいるブリティッシュコロンビア州においては2011年1月に法規制されたばかりです。ちなみにカナダ国内では、1991年にオンタリオ州が法規制を開始した他、アルバータ州、ノバスコシア州やマニトバ州でも登録制度を施行中です。法律の成立前は、日本での薬剤師経験があれば、現地の薬局でテクニシャンとして勤めることも黙認されていましたが、現在は、そういったことも難しくなっています。

そして近年、日本でも「テクニシャン制度の導入」について議論が持ち上がっています。「テクニシャンの手を借りることで、薬剤師が本来の業務に専念できる」と導入に賛成する側、法律や役割の奪い合いなどさまざまな理由から反対する側と、賛否両論がある状況です。

では、このテクニシャンという役職、皆さんはどの程度ご存知でしょうか。北米ではテクニシャンの需要と就職率は年々上昇し、今や医療業界において欠かせない職種となっています。今回は、私が住んでいるカナダにおけるテクニシャンの役割について紹介します。

事務作業から調剤監査まで、テクニシャンの仕事は幅広い!

■ カナダにおけるテクニシャンの業務内容

薬局やドラッグストアで働くテクニシャンの仕事は以下に記しましたが、ざっと挙げるだけでも、これだけあります。業務内容は職場によってもかなり異なるようです。

  • 患者情報(生年月日やアレルギー歴等)、処方箋情報の入手およびコンピューター入力
  • トランスファー処理(薬局間の患者情報・処方箋情報の転送)
  • 処方箋記載内容(必要記載事項)の確認
  • 処方薬の計量調剤
  • クリームや軟膏などの外用剤の調合(非無菌調製)
  • 薬袋(ラベルシール)の作成と調剤した薬の包装
  • 他のテクニシャンが調剤したあとの調剤監査(tech-check-tech)※1
  • 新規処方薬およびリフィル処方薬の受け渡し(薬剤師による指示のもと)
  • 会計および保険請求業務
  • 処方箋や請求書の整理などの事務的作業
  • 医薬品の補充や在庫の管理
  • 電話対応と薬剤師への照会
  • 自己血糖検査器やその他携帯用補助器の実演説明

※1:カナダ政府が行った調査(National Survey of Pharmacy Technicians and Assistants in Canada Mar 2007)によると、病院では74%、薬局・ドラッグストアでは37%の割合で「tech-check-tech」が実施されている。

私がテクニシャンとして働いていたときは、リフィル処方箋やトランスファーのシステムなど、薬局のシステムに関して知らないことが多かったため、先輩の薬剤師に実務の中で教わりながら覚えました。また、特に難しかったのが電話対応で、患者さんから、医師、クリニックのスタッフ、他の薬局薬剤師、保険会社の担当者まで電話の相手はさまざまです。中でも日本との違いを感じたのが医師からの電話内容。カナダでは電話による処方が可能なため、医薬品の適正用量に関する相談や、処方内容の伝言などが電話でもよくあります。また、電話中に互いをファーストネームで呼び合ったり、世間話や笑い声が聞こえてくる様子は日本での風景とまったく異なり、医師と薬剤師たちの距離の近さにとても驚きました。さらに、カナダで経験した調剤業務の一つが、麻薬中毒者へのMethadoneの経口液剤処方です。転売を防ぐため、患者さんには来局時にその場で服用していただき、受け取りの署名を記録として残すことが義務付けられていました。

一方、病院で働くテクニシャンの業務内容は薬局、ドラッグストアとは少し異なります。

  • 薬局よりも幅広い医薬品の調剤(静脈注射、経静脈栄養剤、抗がん剤 等)
  • 病棟常備薬の補充や在庫管理
  • 自動調剤機などの補充

なお、薬剤師は上記全ての行為および薬物治療全般に対して責任を負います。そのため、薬剤師の指示なしにテクニシャンが薬を患者に投与することは禁止されています。
また、6割のテクニシャンが現在の業務内容や責任の範囲、また教育や研修内容が妥当であると感じているのに加え、3割強のテクニシャンが「さらに多くの責任を受け入れられる」と回答しており、多くのテクニシャンは職能拡大に向けて前向きな姿勢であることが見て取れます。

テクニシャンの9割以上を女性が占める

■ 労働環境

カナダの調剤技師_グラフ

カナダ政府の調査によると2000人以上のテクニシャンのうち94%は女性という結果が出ています。その勤務先の内訳は右の円グラフ(カナダのテクニシャンの勤務先)を参照してください。

労働時間においては、87%のテクニシャンがフルタイムで週に30~40時間以上勤務しているのに対し、週に30時間以内のパートタイムとして働いている割合は13%と少ないのが印象的でした。

次に人員体制ですが、調剤薬局・
ドラッグストアでは、平均3.4人のテクニシャン(2.5人の正社員と2.1人のパートタイム)が勤務しているのに対し、病院では平均18.5人のテクニシャン(15人の正社員と7.5人のパートタイム)が勤務。一方、薬剤師の人数は、調剤薬局・ドラッグストアでは平均3人が勤務しているのに対し、病院では平均14人です。つまり、調剤薬局・ドラッグストアでは薬剤師1人に対してテクニシャン1人強を配置していることが分かります。

先述の調査結果では、テクニシャンの仕事全般に関する満足度は高い(7~9割が満足)というデータがありましたが、その一方で4割以上のテクニシャンが「仕事量が膨大」と感じており、特にチェーン薬局で勤務するテクニシャンはその傾向が強いようです。

■ 給与

薬局に勤めるテクニシャンの平均年収は、約328万円(C$1=¥94.7で換算)で、20年以上経験のあるテクニシャンならば430万円ということもあります。一方、病院に勤めるテクニシャンの平均年収は薬局よりも高く、データによれば約430万円(経験の長いテクニシャンの場合は580万円)。ちなみに、病院勤務のテクニシャンの年収は、アメリカに比べてカナダのほうが高いようです。

■ 教育

テクニシャンは認可を受けた機関でのテクニシャン養成プログラムの受講や試験の受験などが必須です。プログラムの受講には、高校卒業もしくは同等の学歴と、生物学や化学などにおける一定の学力が求められ、その他にタイピング速度や健康診断、警察証明などが必要。受講期間は30週~1年間で、うち約300時間は薬局や病院での実務研修に当てられます。なお、「Pharmacy assistant」には、特別な養成プログラムはなく、実務経験のみでも採用されます。

■ 生涯教育、研修

カナダ政府の調査結果によると、テクニシャンは専門性や技術の向上のための研修への参加に関して、会社から十分なサポートが得られていないと感じる傾向があります。これは研修実績よりも、経験年数が昇給に反映されやすいとの事情があるためです。

他国の薬剤師がカナダでテクニシャンとして活躍

現在、カナダでテクニシャンとして勤務している人の2.2%は、海外で薬学の教育を受けた経験があり、その80%弱が30歳以上の女性。さらにその60%は海外で薬剤師経験を持つというデータがあります。最多はイギリスの薬剤師で、その他にも世界各国(中央アジアや東ヨーロッパ、中南米、アフリカなど)の薬剤師が勤務しています。また、そうした人々は薬局やドラッグストアで勤務する傾向が強いようです。
調査によると、こうした薬剤師経験を持つ外国人テクニシャンには「仕事に対する満足度の低さ」が目立っており、カナダ人のテクニシャンに比べて「従業員同士の関係性」や「自らの技術の活用」「就業の機会」 に関する満足度が低いという結果が出ています。
私も、カナダでテクニシャンとして働いていた時、「知識の活用」という点においては、自らの技術を活用できていないジレンマを感じていました。投薬や薬物療法に直接関わることのできないテクニシャンの仕事では、物足りなさを感じていた部分が正直あります。もちろん個人差はありますが、薬剤師として働いていた人たちが、言語や国が異なることで知識や技術を活用できず、満足度が低下する傾向にあることは、おおいに共感ができました。

■ 現状

ブリティッシュコロンビア州では、2011年からテクニシャンとしての登録制度が法律化されましたが、National Survey of Pharmacy Technicians and Assistants in Canada Mar 2007が実施された時点では、他の州で登録済となっていたテクニシャンは40%のみでした。州をまたいで引っ越しした際に、その州で登録制度を施行している場合は新たにテクニシャンの登録が必要になります。登録制度を採る州が増えたことで、テクニシャンに対する教育の均質化につながり、彼らの知識や技術の向上が実現したと考えられます。
医療従事者不足の傾向にあるカナダでは、テクニシャンの職能向上が薬剤師不足を補う大きな戦略の一つになりつつあるのです。

<参考>

  • The Pharmacy Technician Workforce in Canada Mar 2007
  • College of Pharmacists of BC “Pharmacy Technician Regulation
  • Occupational Outlook Handbook
  • General Regulation under the Pharmacy Act, 1991
  • PayScale
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