なぜドイツの薬局はかかりつけ薬局なのかFederal Republic of Germany

ドイツ・ロッテンブルグで薬局を経営するアッセンハイマー慶子さん。全3回にわたってドイツの薬局・薬剤師事情についてレポートしていただきます。

◆アッセンハイマー慶子氏
ドイツ「セントラル薬局」開設者、薬剤師。一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事。
「29年前、ドイツの大学院に入学したばかりの頃、研究室の同僚の働きぶりを見て、『薬学は衣食住に関わるオールラウンドな学問である』と感じました。大学で取得した専門知識を職場だけでなく、趣味や日常生活に生かしていたことに大変驚いたのです。連載を通してドイツの医療制度と薬剤師を取り巻く環境や、仕事の大切さや楽しさを伝えていければと思います」

「かかりつけ薬局」の国であるドイツ

最近、日本のマスメディアで「かかりつけ薬局」という言葉を頻繁に見聞きするようになりました。それに伴い、日本ではドイツの薬局業務体制が注目されているようです。当然、日本とドイツでは「かかりつけ薬局」の定義が異なり、双方の薬局を制度面だけで比べても有効とはいえません。しかし、ドイツの「かかりつけ薬局」から日本が取り入れられるものは多いはずです。

そこで今回は、「ドイツでかかりつけ薬局が成立している理由」についてひも解きます。なぜドイツの薬局は「かかりつけ薬局」として存在できているのでしょうか。それには「薬局の開設・経営権、調剤権の所在」「物流システムの充実と道路事情」「処方箋業務の効率化」「薬局に対する認識」という4つの理由があります。

薬局の開設・経営権、調剤権の所在

1241年、神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ2世は、勅令により医師と薬剤師の職業を分け、薬剤師のみに薬局の開設・経営権と調剤権を与えました。これがドイツ医薬分業の始まりです。この原法は薬局関係法規である「Apothekengesetz(薬局法)」や「Apothekenbetriebsordnung(薬局営業法)」などに受け継がれているため、現在も一部の例外を除き、全て院外調剤です。また、薬局の開設・経営は薬剤師に限定されているだけでなく、最大4店舗と規定があります。そして薬剤師は国民の健康を守る義務を課せられています。

政府が、法律によって薬局や薬剤師を守ってきた理由は、これまでの戦争経験から、医薬品の供給を重視しているからではないかと考えます。もし薬局関係法規が崩れ、自由競争の波が訪れると、海外資本のチェーン店の侵入を阻むことができず、有事に医薬品が国内に入ってこなくなるかもしれません。医薬品の安定的に供給するためには、国をあげて薬局や薬剤師の存在意義を確立する必要があるのです。

物流システムの充実と道路事情

ドイツは16の連邦州から成り立っており、それぞれの州が独立して機能しています。医薬品卸会社はだいたい各州に物流拠点を置いているため、州内の薬局へ迅速に医薬品を供給できます。例えば、地方の小さな町の薬局でも2社の医薬品卸会社と契約すれば、1日に3~5回の配送が可能です。つまり、発注から短時間で納品されるため、医薬品を切らすことなく患者さんに提供することができます。

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また、ドイツの道路構造も医薬品の迅速な供給を可能にしています。日本とドイツの国土面積はあまり変わりませんが、ドイツは平地が多く、国土全体を網目状に道路が走っています。これにより、国内どこへでも医薬品を最短時間で輸送できるのです。

処方箋業務の効率化 

■処方箋について

ドイツの処方箋は保険集計処理の便宜上、サイズもフォーマットも全州で統一されています。また、1995年からは、保険請求に必要な医薬品価格や医薬品同定番号(Pharma Zentral Nummer)の記載の機械化が義務化されました。そして、ここ数年は処方箋の読取り用スキャナーも導入され、業務効率化に拍車がかかりました。

■調剤業務について

すべて箱出し調剤のため、ピッキングの必要がなく、処方箋を受け取ってから医薬品を渡すまで短時間ですみます。そして、軟膏やカプセルなどの調合はPTAが行うため、薬剤師は服薬指導や学術業務などに専念できます。薬剤師はできる限り、患者さんの応対や自身の勉強のために時間を割くようにしているのです。

薬局に対する認識

ドイツの薬局は、いつでも気軽に訪れることができます。また、医薬品の相談や健康相談のみならず、自然科学全般に関する質問にも対応します。こういった場所は薬局ぐらいです。もちろん、薬剤師が何でも知っていてどんな質問にも即答できるわけではありません。後で調べて回答することのほうが多いくらいです。それでも患者さんから頼られるのは、「薬剤師は大学で科学一般を幅広く勉強をしてきた人」というのが共通認識になっているからだと思います。ある晩、町を歩いていたら小学4年生くらいの子ども2人に突然「UFOは本当に存在するの?」と尋ねられ、答えに苦慮したことがあります。どうして私に聞くのか質問したら、帰ってきた答えが「だって、薬局のおばさんだもの」でした。薬剤師が住民から求められる知識の幅広さに驚き、もっと勉強しなくてはという意識が強くなった出来事です。

ドイツの薬局のゆくえ

薬局の経営基盤を大きく揺るがした2004年の医療改革から約10年が経ちました。改革前、ドイツの薬局は「何もしていないのに儲け過ぎ」「薬局が多すぎるから医薬品費がかさむ」などといった、大バッシングを受けていました。この10年間は、ドイツの薬局、薬剤師にとっては大きな試練だったと思います。もちろん医薬品卸会社も製薬会社も同様だったはずです。そして今後、高齢化社会に伴う医療費増大問題の到来を考えると、再度、医療改革が起こる可能性も視野に入れ、薬局や薬剤師はさらなる努力が必要になってくるでしょう。

一方で、法律に守られた薬局の独立性、薬剤師の地位と業務、そして職能を生かせる環境を考えると、ドイツの薬局、薬剤師は日本と比べて恵まれているとも思います。時代が変化していく中で、薬剤師が国民から頼られる存在であり続けているのは、薬学の楽しさと国民の健康を守るという使命感からではないかと思います。薬学は、衣食住全てに関わるオールラウンドの学問。「なぜ?」を探求していくと、薬学にたどりつくことが多くあるのです。そのため、ドイツ人薬剤師の頭の中はいつも薬学モード。どんなことも薬学と結びつけて考えてしまいます。そして、自分を頼りにしてくれる患者さんを目の前にすると、親身になって答えてあげたいと思うのです。

日本の薬剤師は、正確でとてもきめの細やかな仕事をしていると思います。この実態を国民に充分に理解してもらうことに加え、「かかりつけ薬局」の普及にあたり、薬剤師が処方箋業務に忙殺されることのない、働きやすい環境が整うようにと願います。それには、国と製薬会社、医薬品卸会社などの関係企業と薬局・薬剤師が一体となる必要があるのではないでしょうか。

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