藤田健二氏2回目藤田健二氏2回目

創薬研究員、薬局薬剤師、学習支援・薬局研究部門のマネジャーを経て、シドニー大学大学院で薬学博士号の取得を目指す藤田健二先生に、オーストラリアの医療制度および薬局実務を読み解きながら、今後の日本の保険薬局のあり方について考察していただく本連載。第2回は、「医療制度および薬局を取り巻く背景」についてお話しいただきます。

かかりつけ医を中心としたプライマリケア・システム

オーストラリアでは、日本の人口のわずか6分の1に相当する約2,300万人が、日本の約20倍の国土に暮らしています。さらに、内陸部は砂漠や草原が大部分を占めており、人口の多くは沿岸部に集中しているため、医療機関へのアクセスの容易さが住む場所によって影響を受けやすいという特徴があります。
オーストラリアの医療保障制度は、税方式による国民皆保険制度を基本として、病院での診療部分をカバーするメディケアと、処方せん医薬品をカバーするPharmaceutical Benefits Scheme (PBS)によって支えられています。この2つの公的システムによって、患者の医療費負担を軽減していますが、対GDP総医療費は2012年で9.1%に達しており(日本は10.3%)、増大する医療費の抑制が喫緊の課題となっています。
オーストラリアで医療機関を受診する場合は、一般医(General Practitioner/ GP)に電話をして予約を取ります。ただし、イギリスのような1人のGPをかかり医として登録する制度ではないため、受診するGPを自由に決定および変更することができます。GPは歯科を除く全ての診療科の疾患が対象。専門医や病院への受診は緊急な場合を除いてGPからの紹介状が必要なため、GPがプライマリケアにおけるゲートキーパーの役割を担っています。

医療機関と薬局の利用頻度

2009年時点でのGPの人数は2万5707人で、人口10万人当たりのGP数は113人。参考までに、日本の診療所に従事している医師数は10万0544人(2012年)、人口10万人当たり79人です。また、オーストラリアでは、1人当たりの年間受診回数6.6回に対して(日本は13.1回)、薬局の年間利用回数は14回以上というデータがあります。
なぜ、オーストラリアでは、医療機関の年間受診回数が薬局の利用回数の半分なのでしょうか。1番の要因は、オーストラリアではリピート処方せん(処方せん1枚で複数回に渡りGPを受診せずに薬局で薬を受け取れる制度)が導入されており、患者の症状と使用医薬品によっては最大12ヶ月間GPの診察を受けないからだと考えられます。しかし、それは同時に、薬局薬剤師も患者の薬物治療管理に相応の責任を担っていることを意味しています。

薬局が置かれている状況

ここで、オーストラリアと日本の薬局が置かれている状況を3つの側面から比較します。
まず、1薬局がカバーしている人口についてです(表1)。2012年時点でのオーストラリアの薬局数は5240店、1店舗が4100人をカバーしているのに対し、同年での日本の薬局数は5万5797店、1店舗が2300人をカバーしており、オーストラリアの薬局の方が1店舗当たり約1.8倍多くの住民をカバーしている計算になります。

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表1.人口と薬局数についての日豪比較

次に、1店舗当たりの薬剤師数を見てみましょう(表2)。2012年時点でのオーストラリアの薬局薬剤師数は1万3451人(人口10万人当たり 59人)、日本の薬局薬剤師数は15万3012人(10万人当たり 120人)です。ただし、オーストラリアには、ファーマシーテクニシャン(テクニシャン)と呼ばれる調剤助手が薬剤師1人につき1~2人いるため、調剤業務を担う従業員数を日本と比較する場合、テクニシャンの人数もカウントする必要があります。薬剤師と同数のテクニシャンが勤務していると仮定して2職種の人数を合算すると、人口10万人当たりの薬局薬剤師とテクニシャン数の合計は119人となり、上述した日本の120人とほぼ同数になります。
つまり、日本の薬剤師数は海外と比較して過剰だという話をときどき耳にしますが、薬局薬剤師とテクニシャンを合算した総数で比較すると特別過剰にはなりません。ここで取り上げた数字を用いて1店舗当たりの薬剤師(テクニシャン含む)の人数を比較すると、オーストラリアは6.6人、日本は2.7人となり、1店舗で調剤業務を担う従業員数はオーストラリアの方が2.4倍多いことが分かります。

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表2.薬局薬剤師数についての日豪比較

最後に、1店舗当たりの処方せん応需枚数についてです(表3)。年間の処方せん枚数はオーストラリアでは2億7500万枚、日本では7億6000万枚であり、これを1店舗当たりの応需処方せん枚数(月間)に換算すると、それぞれ4400枚と1100枚に相当します。つまり、日本の薬局と比べて、オーストラリアの薬局の方が1店舗当たり約4倍多く処方せんを調剤している計算になります。

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表3.処方せん枚数についての日豪比較

以上をまとめると、オーストラリアの薬局は、1店舗当たりの調剤業務を担当する従業員数は日本よりも2.4倍多いものの、日本よりも1店舗当たり1.8倍多くの住民をカバーして、4倍量の処方せんを応需していることが読み取れます。このような違いが生じる理由は、両国間に大きく3つの違いが存在するからではないかと考えています。
1つ目は、調剤方法の違いです。オーストラリアでは包装単位で調剤を行うため、日本のように箱から薬を取り出してシートをハサミで切って輪ゴムでとめる業務がありません。服用方法などの必要事項が記載されたラベルを箱に貼って完了なので、ピッキング時間が短時間ですみます(写真1)。

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写真1.箱出し調剤の様子(筆者撮影)

2つ目は、薬歴記載方法の違いです。オーストラリアでは、薬歴の記載が必須ではありません。ただし、患者と話をした結果、薬学的介入につながった場合は、決められた方法で記載する必要はあります。よって、このことも業務時間の短縮につながります。
3つ目は、法規制の違いです。オーストラリアでは、日本のように薬剤師一人当たりの処方せん応需枚数に制限がないため、少人数でも多くの処方せんを応需することができます。また、オーストラリアでは、薬局の開設や移転に対して政府が厳しいルールを設けています。その結果、適正数の薬局が適切な位置に配置されており、全ての国民が平等に薬局へアクセスできることを可能にしています。
このように、患者の薬物治療管理に悪影響を及ぼさない範囲での調剤業務の効率化と偏りのない薬局配置が、日本よりも少ない薬局数で多くの処方せんを応需することを可能にしていると考えられます。

オーストラリアは「コンサルタントファーマシスト」を活用

今後、日本で、かかりつけ医による医療提供体制が構築されて医療機関の機能分化が進めば、大病院の前で林立している薬局数が減少するとともに、薬局の立地面での偏りも徐々に解消されていくと考えられます。今回取り上げたデータをもとに、将来的な処方せん枚数の伸びなどを考慮せず、単純に両国の人口対薬局数だけを考えると、日本は約3万1000店舗あればオーストラリアと同等のサービスが可能という結論になります。
しかし、こうした単純な数値比較だけでは意味を持ちません。なぜなら、近年オーストラリアでは、薬局内での業務が忙しくて在宅や介護施設での活動ができない薬局薬剤師の代わりに、薬局外でのサービス提供を専門とする薬剤師「コンサルタントファーマシスト」が誕生しており、こうした動きは、日本が目指す健康サポート薬局とは異なる方向に進んでいく可能性があるからです。そのため、海外の薬局事情を日本と比較考察する場合、今回取り扱った定量的なデータだけでなく、薬局に求められる機能を含めて、さまざまな角度から考察する必要があります。
次回は、薬局の役割および実現に向けた取り組みについて考察していきます。お楽しみに!
こちらの記事に関する問合せは「kfuj2522@uni.sydney.edu.au」まで。

【主な参考文献】
Duckett, S., and Wilcox, S. (2015).The Australian Health Care System (5th ed.).South Melbourne,Vic: Oxford University Press.
Hattingh, L., Low, J. S., & Forrester, K. (2013).Australian pharmacy law and practice (2nd ed.).London: Elsevier Health Sciences APAC.
The Pharmacy Guild of Australia. (2015).Retrieved November 27, 2015, from http://www.guild.org.au/.

専門家プロフィール

藤田 健二

藤田健二(ふじた けんじ)

昭和薬科大学大学院卒業後、杏林製薬株式会社に入社し、新薬の探索研究に3年間従事。その後、薬樹株式会社の薬局薬剤師として3年、同社における社内外の学習支援・薬局研究のマネジメント業務に4年従事した後、渡豪。2015年6月にシドニー大学大学院臨床疫学プログラム修了。2016年3月より同大学院博士課程へ進学予定。36歳。

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