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こんにちは。株式会社アインホールディングス在宅医療部の山口です。アインホールディングスが展開する「アイン薬局」は、2008年から北海道夕張市で在宅医療をはじめました。その経験をもとに、現在は「在宅医療は支える医療である」という方針を掲げ、全国の薬局で在宅医療を実施しています。本連載では、4回にわたり「在宅医療で重要なフィジカルアセスメント」について紹介します。第2回は「なぜ今、薬剤師にフィジカルアセスメントが必要なのか」をお伝えします。

情報を適切に評価する力が必要

患者さまの自宅にうかがうと、薬局の窓口では知ることのできないさまざまな情報を手に入れることができます。例えば、食事・睡眠・排泄・運動など治療に生かせる患者さまの身体に関する情報です。しかし、多くの情報を得ているだけではより良い治療はできません。治療に役立つ情報か否かを評価する能力(=フィジカルアセスメント能力)が大切なのです。フィジカルアセスメントを行う際、視診・聴診・触診技術の習得には十分なトレーニング時間が必要。しかし血圧や脈拍、動脈血酸素飽和度、体温測定などの機器による測定(バイタルサイン)は比較的短時間で習得しやすい技術です。
今回はバイタルサインのチェックを初めて導入した例を紹介しながら、フィジカルアセスメントの重要性を解説します。

はじめてのバイタルサインチェック

私がアイン薬局夕張店で働きはじめた当時(2009年)は、薬剤師によるバイタルサインのチェックは今ほど一般的ではありませんでした。そのため、フィジカルアセスメントに不慣れな人がいても簡単にでき、測定者の能力によって結果に差が出ない手法を考える必要がありました。そこで行き着いたのが「自動血圧計による血圧測定」「経皮的動脈血酸素飽和濃度モニター(パルスオキシメーター)による脈拍測定」「動脈血酸素飽和濃度測定」「体温測定」です。これらは自動測定が可能であるため、測定者によって結果に差が出ることはありません。なお、バイタルサインチェックの目的は在宅医療における副作用モニタリングと位置付け、異常値を以下のように設定しました。

・血圧160/100mmHg以上又は収縮期血圧が90mmHg以下
・脈拍100以上又は50以下
・動脈血酸素飽和濃度90%以下

<自動血圧計による血圧測定  アムロジピン口腔内崩壊錠5mgの場合>

ここで導入事例を一つ、ご紹介します。アムロジピン口腔内崩壊錠5mgが追加処方された患者さまがいました。従来は、効果が現れているか否かは患者さまへの問診でしか判断できませんでしたが、バイタルサインのチェックができるとどうなるのでしょうか。

アムロジピン口腔内崩壊錠5mgの半減期は36.2±5.0時間です。この薬剤が体内で定常状態に達するには約(半減期×5)時間要することが分かっています。つまり、156~206時間、6.5日~8.6日かけて薬剤は体内で定常状態に達します。そのため、患者さまがアムロジピン口腔内崩壊錠5mgを服用してから7日後に、再び患者さまの自宅を訪問し、血圧を測定しました。患者さまの血圧は、以前は収縮期血圧160、拡張期血圧100だったものが収縮期血圧145、拡張期血圧85に降下。さらに、規定した異常値にも該当しないことから、薬剤の効果は適正に現れ、かつ過降圧も現れていないことが分かりました。薬剤師が薬剤の体内動態を把握し、血圧などのバイタルサインを取るといったフィジカルアセスメントを行うことで、薬剤の効果や副作用を客観的に判断できるのです。

バイタルサインのチェックをするなら多職種に報告を

薬剤師がフィジカルアセスメントを行う際、それが医療行為にあたるか否かという問題に直面します。しかし、薬剤師によるフィジカルアセスメントの目的は診断ではなく、薬剤の適正使用であるため、医療行為ではないという考えが一般的です。医師は「治療」のために、看護師は「療養状況の把握」のために、薬剤師は「効果の確認や副作用の早期発見」のためにフィジカルアセスメントを行います。多職種がそれぞれの目的に基づいて、フィジカルアセスメントを行うことは患者の安全で効果的な治療を支えるうえで大変重要なことなのです。

なお、アイン薬局夕張店の場合、バイタルサインのチェックを行う際に「連携」と「情報共有」の観点から、主治医以外の医師や訪問看護師にも実施許可を取りました。「何もそこまでしなくても」と思うかもしれませんが、薬剤師によるバイタルサインのチェックを在宅医療の仕組みの一つとして認識してもらうには、この程度の配慮は必要です。在宅医療において、多職種に薬剤師の職能をアピールすることは重要ですが、同時に多職種に対する心遣いも大切。チームの一員としての自覚を持って仕事にあたることが、多職種連携を強固にさせるのです。次回は「脈拍測定から副作用を早期発見した事例」についてご紹介します。

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専門家プロフィール

 山口 俊司

山口 俊司(やまぐち しゅんじ)

株式会社アインホールディングス 運営統括本部 在宅医療部 次長。
日本臨床腫瘍薬学会 臨床研究委員会委員、全国薬剤師・在宅療養支援連絡会 北海道ブロック幹事。
医療機器メーカー経験後、病院薬剤師などを経てアインホールディングスに入社。
アイン薬局夕張店にて在宅専任薬剤師として勤務後、現職に。アイングループ全体の在宅医療に関する営業、開発、社内外の教育などを行っている。