薬剤師は新たな添付文書をどう読み解き、活用するか

2017年6月、医療用医薬品添付文書の記載要領が20年ぶりに改正され、2019年4月1日から施行されました。今後順次、新記載要領に基づく添付文書が登場することになりますが、薬剤師として新様式の添付文書に対応し、医療現場で活かすことができるか不安との声も多く聞かれます。本記事Part1では、独立行政法人 医薬品医療機器 総合機構(PMDA)医薬品安全対策第二部次長の鬼山幸生氏に添付文書の新記載要領のポイント、Part2では虎の門病院 薬剤部長・治験事務局長の林 昌洋氏に薬剤師としての活用法について伺いました。

part1 改正の狙いとそのポイント


新たな添付文書の記載要領はどのように改正され、その狙いはどこにあるのか?
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医薬品安全対策第二部次長の鬼山幸生氏に改正のポイントと狙い、活用時の留意点などを聞きました。

改正に至る経緯・背景と目的 20年で大きく変わった医療環境


医療用医薬品の添付文書は、医薬品医療機器等法の規定に基づき、医薬関係者に対して必要な情報を提供する目的で、医薬品の製造販売業者が作成するものです。従来の添付文書は、1997年(平成9年)に定められた「医療用医薬品添付文書の記載要領について」および 「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」に基づいて作られています。今回の改正で、20年ぶりに新様式の添付文書が登場することになります。
新様式の添付文書については、すべての医薬品が一斉に変更されるというわけではなく、2024年3月31日まで5年間の経過措置期間が設けられており、それまでに順次移行すればよいことになっています。その間は旧様式の添付文書と新様式の添付文書が混在することになり、医療現場での混乱も予想されています。
今回の改正の背景には、近年、医療を取り巻く環境が大きく変化したことがあると話すのは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)医薬品安全対策第二部次長の鬼山幸生氏です。
「IT技術の発展によって医薬品情報へのアクセス方法が多様化し、医療そのものも大きく進歩しました。日本社会の高齢化も進み、国民の皆様の医薬品への意識も変化しています。多様なユーザーのニーズに対応して、よりわかりやすい添付文書に改正してはどうかと、2008年(平成20年)ごろから変更を検討し始め、厚生労働科学研究事業を約5年間続けてきました」
その研究事業である、医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「医療用医薬品の使用上の注意の在り方に関する研究及び記載要領に関する研究」(研究代表者:佐藤信範 千葉大学大学院薬学研究院教授)では、従来の添付文書に対して全国の医師・薬剤師にアンケート調査も行っています。
それによると、医療用医薬品の添付文書は、大多数の医師・薬剤師が「重要」であるとしているものの、承認条件の存在を認知していない、重複する部分が多い、画一的な情報で役に立たない、「原則禁忌」は使って良いのか悪いのかわからない、「慎重投与」がわかりにくいなどの問題点が多く指摘されました。そうした指摘も踏まえて改正されたのが、今回の添付文書の記載要領です。

おもな改正内容 様式の変更と新設項目に注目


今回のおもな改正ポイントとして挙げられているのは、次の5点です(図1)。

(1)「原則禁忌」の廃止

前述のアンケート調査で、「原則禁忌」の理解度を調査したところ、医師、薬剤師とも約半数が「原則禁忌は禁忌と同等」と回答する一方、約半数が「原則禁忌は慎重投与・併用注意と同等」と答えるなど、同項への理解にばらつきが見られました。そのため、「原則禁忌」は廃止し、新様式の添付文書では「禁忌」または新設する「特定の背景を有する患者に関する注意」の「合併症・既往歴等のある患者」の項などに記載されます。

(2)「特定の背景を有する患者に関する注意」の新設

禁忌を除く特定の背景を有する患者への注意を集約するため、「特定の背景を有する患者に関する注意」が新設され、同項の下に「合併症・既往歴等のある患者」、「腎機能障害患者」、「肝機能障害患者」、「生殖能を有する者」、「妊婦」、「授乳婦」、「小児等」、「高齢者」の項が新設されます。

(3)「慎重投与」の廃止

禁忌を除く特定の背景を有する患者への注意は、新設の「特定の背景を有する患者に関する注意」の項に集約され、「慎重投与」は廃止されます。

(4)「高齢者への投与」、「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」、「小児等への投与」の廃止

これらも新設の「特定の背景を有する患者に関する注意」の項に集約されます。。

(5)項目の通し番号の設定

「警告」以降のすべての項目に固定番号が「1.1」等の形で付与されます。関連項目がある場合は、相互に参照先として項目番号が記載されます。また、新記載要領で記載が定められている事項に該当がない場合は、その項目は欠番となります。「『原則禁忌』がなくなることによって、禁忌の項以外の大半の内容は『特定の背景を有する患者に関する注意』に移行するというイメージを持っていただければよいのではないでしょうか。今回の改正は基本的に、新しいことを記載するというよりも、これまでの内容を 並べ替えて整理することが大きな目的です。記載内容の重複はなるべく避け、よりわかりやすくなるように、記載の様式を変更したとご理解いただければと思います」(鬼山氏)

図1 旧様式と新様式での添付文書の項目比較

PMDA資料を元に編集部で作成

記載する目安が変わった項目も 妊婦、授乳婦の項で注意したいこと


新記載要領では記載様式の変更が主体で、記載内容はそれほど変わらないのですが、例外もあります。「特定の背景を有する患者に関する注意」の中の「妊婦」と「授乳婦」の項です。記載する目安が若干変わったと、鬼山氏は言います(表1、2)。
「たとえば『妊婦』の項の場合、旧様式の添付文書では、動物実験で催奇形性が認められたら、ほとんどの場合『投与しないこと』などと記載していましたが、新様式の添付文書では薬理学的データなどもう少し客観的なデータが示された医 薬品に対して『投与しないこと』と記載することになりました」
また、授乳婦への薬剤投与に関しては、動物実験で乳汁中に分泌が認められたという結果のみをもって授乳婦への投与を禁忌と設定している医薬品が多い。外用薬でも、授乳婦への使用の可否は、同一有効成分の経口 または経静脈投与による実験結果に基づいて決められています。それはおかしいのではないかと、厚生労働科学研究の中でも指摘されていたと言います。
そこで、授乳婦に関しては、動物実験で乳汁中に分泌が認められた薬剤すべてを禁忌にするのではなく、客観的データから児に対して影響が懸念されるものについては注意喚起をするが、児への影響が不明な場合には、最初から母乳栄養の機会を奪うのではなく、医師等が治療上の有益性とリスクを患者さんや家族へきちんと説明した上で、使うか使わないかを決めるという記載に変更しています。
「母乳に対する考え方は患者さん各々で違いますし、授乳の時期によっても考え方が変わってくるはずです。そのためすべからく禁止にするのは問題です。妊婦さんの場合も、胎児に及ぼす影響が懸念される場合でも、当該影響の内容・程度や、疾患の重篤性、妊娠時期等の状況によっては医薬品を使いたいと判断される場合もあるのではないでしょうか。妊婦、授乳婦の項ではそうした考え方のもとで記載の目安が変更になっています」と鬼山氏は説明します。

表1 「9.5 妊婦」 における注意事項とその目安
「投与しないこと」 以下のいずれかに該当し、かつ、 妊婦の治療上の有益性を考慮しても、投与すべきでないもの。

  • ヒトでの影響が認められるもの。
  • 非臨床試験成績から、ヒトでの影響が懸念されるもの。
「投与しないことが望ましい」
  • 非臨床試験成績から、ヒトでの影響が懸念されており、 妊婦の治療上の有益性を考慮すると、投与が推奨されないもの。
  • 既承認医薬品において【投与しないことが望ましい】と記載されているもの。
「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」
  • 当該医薬品の薬理作用、非臨床試験成績、臨床試験成績等から妊娠、胎児又は出生児への影響が懸念されるが、【投与しないこと】及び【投与しないことが望ましい】のいずれにも当てはまらないもの。
  • 非臨床試験成績等がなく、 妊娠、胎児又は出生児への影響が不明であるもの。
記載なし
  • 非臨床試験で妊娠、胎児及び出生児への影響が認められていないものであって、薬理作用からも影響が懸念されないもの。
PMDA資料を元に編集部で作成
表2 「9.6 授乳婦」 における注意事項とその目安
「授乳を避けさせること」
  • 非臨床試験又はヒトで乳汁への移行が認められ、かつ薬理作用や曝露量等からヒトで哺乳中の児における影響が懸念されるもの。
「授乳しないことが望ましい」
  • 非臨床試験成績から、ヒトでの影響が懸念されており、 妊婦の治療上の有益性を考慮すると、投与が推奨されないもの。
  • 既承認医薬品において【投与しないことが望ましい】と記載されているもの。
「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」
  • 非臨床試験で乳汁への移行が認められるが、薬理作用や曝露量等からはヒトで哺乳中の児における影響が不明であるもの。
  • 非臨床試験等のデータがなく、ヒトで哺乳中の児における影響が不明であるもの。
  • 薬理作用又は非臨床試験での乳汁移行性等から、ヒトで哺乳中の児における影響が懸念されるが、【授乳を避けさせること】及び【授乳しないことが望ましい】のいずれにも当てはまらないもの。
記載なし
  • 非臨床試験で乳汁移行が認められていないものであって、薬理作用から哺乳中の児への影響が懸念されないもの。
PMDA資料を元に編集部で作成

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副作用の記載も変化
改正スケジュールと課題 後発医薬品の添付文書も変更へ
part2 新記載要領の添付文書を活用するには
「原則禁忌」廃止の背景 人によって「禁忌」のイメージが違うことも一因
「慎重投与」廃止の理由 中途半端な理解を整理し、より具体的に
「妊婦」、「授乳婦」に関する記載の変更は授乳婦さんと妊婦さんのメリットが大きい
「副作用」の項も記載が変わった 最初にメッセージとして伝えたいことを優先
医薬分業で変わった添付文書の位置づけ 薬剤師は新添付文書にどう対応すべきか?

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記事元:ファーマスタイル
提供元:薬剤師は新たな添付文書をどう読み解き、活用するか - 2019年8月号 特集 – ph-lab.m3.com