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世界の薬歴事情世界の薬歴事情

薬剤服用歴管理指導記録の未記載が問題になっていますが、諸外国ではどのように薬剤服用歴(薬歴)を管理しているのでしょうか。医療制度や社会保障制度など国によって事情が異なるため、単純に日本との比較はできませんが、諸外国の状況を知ることは、日本の薬歴管理を考えるうえで、参考になる部分があるはずです。
そこで今回、薬キャリ編集部では日本、アメリカ合衆国、フランス、ドイツ、イギリス、オーストラリアの6ヵ国の医療制度と薬歴管理事情をまとめました。

EHRとPHR

各国の薬歴管理事情を説明するのにポイントとなるのがEHRとPHRという二つのシステムだ。まずEHR(Electronic Health Record)は、病院や調剤薬局が持つ診療情報、薬歴などをネットワークによって地域レベル、国家レベルで共有するシステムのこと。一方、PHR(Personal Health Record)は、個人が自らの生活のクオリティ維持、そして向上のために自分の服薬履歴などの医療・健康情報を管理するシステムを指す。なお、PHRの定義は国によって異なり、日本のお薬手帳はPHRの一つといえる。

国の制度によって異なる薬歴管理の仕組み

日本

主治医制を採っていないため、一人の患者が複数の医療機関を受診することが可能で、薬局も自由に選べる。EHRシステムの導入は一部で進められていたが、2015年現在、全国的な導入には至っていない。そのため、患者の薬歴は処方箋を受け取った各薬局が、専用用紙への記入もしくはデータ入力して管理している(保管期間は3年間)。
そして、PHRの役割を果たすのが医療機関で無料配布されている「お薬手帳」。これは、薬の飲み合わせのチェックや副作用の防止のため、服薬履歴やアレルギーなど、医師や薬剤師に必要な情報を記載する手のひらサイズの手帳だ。また近年は電子お薬手帳の開発と導入も進んでいる。

アメリカ合衆国

国民IDとして社会保障番号が配布されており、主治医制を部分的に導入している。また、オバマ政権は医療分野でのIT化を掲げ、EHRやPHRなど医療情報のネットワーク化を進行中だ。アメリカは民間中心の医療制度であるため、大手IT企業によるサービスから地域医療ネットワーク、民間事業者によるものまでPHRシステムも多様に存在。薬歴を含めた情報管理の仕方もサービス提供者によって異なる。

フランス

主治医制度を導入するフランスでは、社会保障番号と個人認証ICカード「Carte Vital」を発行。すべての国民の薬歴は、インターネットでも使用可能な個人診療記録システム「Dossier Médical Personnel(DMP)」で管理されており、これがEHR、PHRに当たる。なお、DMPは健康情報共有システム庁が運営する無料サービス。データの保存期間は10年で本人がデータを破棄することも可能だ。

ドイツ

国民は近隣の診療所に主治医登録しなければならず、診療所では外来患者の診療、病院は入院治療のみを行なう。なお、電子カルテなどの院内情報化は各医療者が責任を負う。
国家的情報サーバーへアクセスするための電子保険証として開発されたのが、健康ICカード「Elektronische Gesundheitskarte」で、服薬履歴や医療費、往診歴といった情報を登録できる。当初は全国民に対して導入する計画だったが、現在は停滞中。

イギリス

主治医制を採用しており、専門医や病院の受診には主治医の紹介が必要。全国民にID番号が配布されており、国民に等しく医療サービスを提供するために「National Health Service(NHS)」制度が整っている。診療所の99%が電子カルテを導入済みで、医療機関はEHRシステムを使って薬歴などの個人情報を共有し、個人の継続的な健康管理としてのPHRは主治医と診療所が管理している。

オーストラリア

主治医制を部分導入しており、病院や専門医にかかる場合は一般開業医の紹介状が必要。また、メディケアID「Healthcare Identifier」が保健と医療の個人認証に利用されており、各種手続きをインタ-ネットで行なえる。2012年には「Personally Controlled Electronic Health Records(PCEHR)」システムを構築し、消費者やヘルスケア提供者が電子的に保健記録をできるようになった。健康情報の原本は医療機関や保険会社が保管しており、個人の投薬情報はこのシステムを介して本人とその医療関係者が共有している。

マイナンバー制により投薬履歴もデータ共有する時代へ!?

こうして諸外国の薬歴管理の事情を比較すると、国民ID制を導入している国ほどEHRやPHRのシステムが整っているようだ。また、注目したいのは欧米諸国で導入が進む「主治医制度」。主治医制を敷くことで個人が無駄に多くの医療機関を受診することがなく、投薬や病気に関する記録の管理がスムーズになっているのではないだろうか。
そもそも薬歴管理は、医療機関が患者の服薬や副作用の履歴を把握するためのもの。行政、医師会、薬剤師会、それぞれの思惑が交差し、薬歴管理のネットワーク化がすぐに進むとは考えづらいが、欧米諸国で医療情報のネットワーク化が進む中、日本での導入も時間の問題ではないだろうか。2016年に導入が予定されているマイナンバー制(共通番号制度)もその実現に影響を及ぼしそうだ。

参考資料
『個人が健康情報を管理・活用する時代に向けて』(日本版PHRを活用した新たな健康サービス研究会)
『医療保障制度と医療情報ネットワーク化状況の国際比較』(岸田伸幸)

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