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健康サポート薬局を現場はどう見る?健康サポート薬局を現場はどう見る?

取材・文・写真/早川幸子

激しい議論の末にようやく確定した「健康サポート薬局」要件

2016年度の診療報酬改定では「かかりつけ薬局・薬剤師」を評価する一方で、大型門前薬局に対する評価の適正化など、本体から切り離して調剤報酬を引き下げる方針が示されました。
これは、2015年10月23日の厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」で示された“門前から地域へ”の流れに沿っており、今後調剤薬局は地域包括ケアシステムの中で地域住民による主体的な健康の維持・増進を支援していく「健康サポート薬局」への転換を後推しされます。
「健康サポート薬局」の要件(※)は以下のとおりです。

まず、健康サポート薬局は、かかりつけ薬局であることが前提です。
◆かかりつけ薬局の基本的機能
①服薬情報の一元的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導
②24時間対応、在宅対応
③かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携強化

この3つを満たしたうえで、次の7要件を満たす必要があります。
◆健康サポート薬局の機能
①地域における連携体制の構築
②薬剤師の資質確保
③薬局の設備
④薬局における表示
⑤要指導医薬品の取り扱い
⑥開局時間
⑦健康相談・健康サポート

※2015年9月24日、厚生労働省「健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会」の報告書より

「かかりつけ薬局」「健康サポート薬局」への転換は、今後、地域に貢献する薬局として生き残っていくための必要条件でもあるでしょう。 こうした社会の変化、地域のニーズを敏感にとらえ、着々と準備を始めているのが、2013年9月に「りんご薬局立花店」(東京都墨田区)を開業した薬剤師・勝野純子さんです。

かかりつけ薬局化に取り組む「リンゴ薬局」の事例

「健康サポート薬局」現場はどう見る?
患者のニーズに応え、たんぱく質や塩分を控えた食品も。

りんご薬局があるのは、東部亀戸線東あずま駅から徒歩3分ほどの下町風情が残る商店街の一角で、昭和40年代に建てられた巨大な都営団地が立ち並んでいます。高齢化率は25%を超えており、孤独死を防ぐための見守りが課題となっている地域です。
リンゴ薬局は透析専門クリニックの門前薬局としてスタートしましたが、調剤の際にさりげなく栄養指導をしたり、ニーズに応じた服薬指導を行ったりするうちに、患者さんの層に変化が見られるようになりました。勝野さんの人柄によって、患者さんが新たな患者さんを呼び、地域に点在するさまざまな診療科の処方箋が集まるようになったのです。現在では、透析専門クリニックの処方箋は半分程度となっています。
「薬局に勤めていた頃から、アメリカのコミュニティーファーマシーのように、地域住民の健康管理や予防に貢献したいと思っていました。透析クリニックの看護師長から院外処方の依頼を受けたのを機に、開業に踏み切りました。患者さんの中には、複数科を受診していたり、認知症などで薬の管理が難しくなっている高齢者も多く、飲み合わせのチェックや残薬の確認など、かかりつけ薬剤師の必要性を、日々意識しますね」
栄養サポートチーム(NST)の資格を持つ勝野さんは、その資格を生かした栄養相談も行っています。りんご薬局には、透析患者が多く訪れることもあり、たんぱく質や塩分を控えた加工食品や栄養剤を販売するなど、薬の調剤に加えて患者の健康をトータルサポートしています。

今度増加する在宅に対応するため設備投資も

健康サポート薬局を現場はどう見る?
「りんご薬局」オーナーの勝野さん(左)

また、店舗での調剤業務のほかに、最近、増えてきているのが在宅業務の依頼です。
「国の医療制度が入院から在宅へと舵を切った今、高齢者の多いこの地区にある薬局が在宅業務の重要な役割を果たすのは明らかです。これからは、薬剤師による注射薬や胃ろうを含めた嚥下困難の患者さんの処方提案も必要になってくるはずです。そのため、新たに無菌設備としてクリーンベンチも購入することにしました。こうした設備投資は、開業間もない勝野さんにとって大きな負担。そこで、日本商工会議所の「小規模事業者持続化補助金」に応募し、その助成金を利用して購入資金の一部にあてることに。「お金がない」と諦めずに、費用負担を抑えながら、地域に役立つ薬局作りをする経営努力はお見事です。
勝野さんは、これまでも土曜日の午後の開局、OTC医薬品の取り扱いなども無理のない範囲で導入してきました。また、薬学部5年生の薬局実務実習も受け入れており、「地域に役立つ薬局とはなにか」を模索してきました。こうした取り組みすべてが健康サポート薬局の要件に合致するものばかりではありませんが『地域住民のため』の努力が結果的に『健康サポート薬局』の要件をほぼ満たすものになっていたのです。

「社会が必要としていること」を突き詰めれば必然的に報酬もついてくる

今回の健康サポート薬局の導入について伺うと、勝野さんからは次のような答えが返ってきました。
「私が目指してきた薬局が健康サポート薬局の要件に近かったということ。だから、今回の要件は自分の目指す方向にきちんと評価が得られるという点で、むしろ歓迎しています」
勝野さんは健康サポート薬局の要件が決まる前から、在宅に必要な注射薬について学ぶための勉強会などを主催し、薬剤師仲間とスキルアップのための研鑽を少しずつ続けていました。それは「地域で役立つ薬局になるためには、まずは自分の力をつけておくことが必要。点数はあとからついてくる」と思っていたからです。
一昔前は、健康相談や在宅業務が患者さんにとっては必要なことと分かっていても、調剤報酬に結びつかないために導入に二の足を踏んでいた人もいるのではないでしょうか。しかし、高齢化が進み入院から在宅への流れがつくられている今、薬局で待っているだけでは薬局経営が成り立たない時代が来ているのです。
今回、健康サポート薬局としての要件が明示されたことは、患者に役立つ薬局に生まれ変わるチャンス。勝野さんのように、補助金などを利用すれば自己負担を抑えて設備投資することも可能です。すぐにすべての要件を満たせなくても、少しずつ準備を始めていきたいものです。

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