高い付加価値を持つ薬局が求められる時代で、薬剤師が社会から必要とされるためには

――今後の御社の市場の見通しについてお教えいただけますか。

島田 光明(しまだ みつあき)
株式会社ファーコス
代表取締役社長 薬剤師

超高齢社会の到来を背景にして、今後国の医療財政はますますひっ迫していくことになるでしょう。医療財政の悪化にともなって、国の医療費削減の流れも強くなることから、調剤報酬の単価が抑制されることが見込まれ、旧来のような近接する病院やクリニックからの集患に依存している門前型薬局では、これまでのような収益が見込めなくなり、経営が成り立たなくなる恐れがあります。保険薬局業界では、こうした情勢を見越して面対応にシフトする動きがありますが、門前型という立地依存の集患構造から離れて面展開をしたからといって、必ずしも増患が見込めるとは限りません。そのため、今後は立地に関わらず広く患者さまから選んでもらえるような「集患的には面対応で、機能的にはかかりつけ」の薬局を目指すことが重要となってくるのではないでしょうか。ファーコスでも既存の薬局の9割は病院やクリニックの門前に立地したいわゆる門前型ですが、これらの薬局に他の医療機関からの処方せんが広く持ち込まれるような高い付加価値をつけていくことが重要と考え、努力しています。数ある薬局のなかから「選ばれる薬局」になるための付加価値はそこで働く薬剤師や薬局スタッフが生み出します。患者さまがあえてファーコスの薬局を選ぶことが、患者さまにとってのメリットとなるよう、ニーズにきめ細かく対応できる薬剤師の存在が不可欠となってくるのです。

――患者さまにはどのようなニーズがあるのでしょうか。また、それに応えるためには何か方法があるのでしょうか。

患者さまはお薬に対して、安心(症状に対し効果がある)・安全(副作用などのデメリットが少ない)・安価(経済的負担が軽い)という三つのご要望をお持ちです。こうした患者さまのニーズにお応えし、薬剤師の高い付加価値を発揮しうる市場の大きな動きとして一般名処方の普及があります。一般名処方の普及により、病院・クリニックの指定する特定のブランドにこだわってお薬を処方する必要がなくなったことで、患者さまの安心・安全・安価のご要望を満たす最適なお薬を、ジェネリック医薬品を含めて薬剤師が提案することが可能となりました。これは薬剤師にとってたいへんな好機であると考えています。今後、医療費の自己負担料率が引き上げられる方向へと国の医療政策が転換した場合は、患者さまにもコスト意識が今以上に強く生まれてくるでしょうから、疾病に対して効果があり、副作用も少なく安全でありながら、安価なお薬を提案してくれる薬剤師の存在は、患者さまが数ある薬局のなかからあえて特定の薬局を選ぶ動機に十分なりうるのです。

ジェネリック医薬品の使用促進や一般名処方の普及によって、薬剤師はこれまでのように、ただ単純にお薬の薬効やブランド名を覚えていればよいというわけではなく、患者さまに対してお薬のことをわかりやすく説明する能力や、患者さまの経済的なご負担を最小限にしながらも、症状に対して効果のある薬をご提案するという意識を持つことが必要です。「薬」のスペシャリストとして薬剤師に期待されてきた役割は、まさにそういった薬に関する専門的な知識や価値ある情報を患者さまにご提供することです。専門性を発揮する薬剤師が価値を作り出してファーコスを「選ばれる」薬局にするのです。

医薬分業の是非や薬剤師の職域・職能に対する昨今の活発な議論は、これまでのような薬局や薬剤師のあり方を考え直すべきだという、国や国民からの課題や期待の表れではないでしょうか。薬局は営利企業であると同時に医療提供施設として、その運営には多額の税金が使われていますが、使われた税金にふさわしい役割を、今の薬局・薬剤師は果たせているでしょうか。我々はもう一度考えてみる必要があると思います。高福祉国家として知られる北欧の国々でも、医療に多額の税金が投じられていますが、薬局以外の医療の現場で薬剤師の姿を見ることはほとんどありません。貴重な税金の使い道が適切かどうかについて非常にシビアな考えを持つ北欧では、薬剤師はかけるコストに見合わない存在として見なされているのかもしれません。私は日本では薬剤師がそうなってほしくないと思っています。ファーコスの薬剤師が「薬」のスペシャリストとしての職域を拡大し、職能を向上させていくことはファーコスが「選ばれる薬局」となるためにはもちろん必要です。それだけでなく、なにより国や国民からの期待に応え、日本の薬剤師そのものの存在価値を今後長きにわたって社会に認識してもらうためにこそ、薬剤師の職域の拡大・職能の向上は不可欠だと考えています。

国や国民から薬剤師に寄せられる期待に応えるためのファーコスのビジョン

――薬剤師の職域の拡大、職能の向上が、薬局経営においてはもちろん、ひいては薬剤師自身が社会に必要とされる存在であり続けるためにこそ重要であるとのことですが、御社のビジョンには、どのような薬局・薬剤師のあり方が描かれていますか。

「あの薬剤師さんがいる薬局が良い」と患者さまから思っていただけることが、ファーコスのビジョンにはあります。人にはそれぞれ行きつけの美容院があるように、信頼を寄せて通う薬局があっても良いと考えています。しかしながら、ただ処方せんを応需し、薬をお渡しするだけを「調剤」薬局の役目としていては「あの薬剤師さんがいる薬局」とは考えていただけないと思います。たとえば薬を提供すること以外でも患者さまに医療を提供できるように、あるいは病院に行く前にまず薬局に立ち寄ってもらえるように、薬剤師が多様な場面で患者さまに高い付加価値を提供できる仕組みをつくります。薬のことも健康のこともなんでも相談できる、薬剤師がもっとも身近な医療の担い手であると地域の方々に認識していただけるよう、ファーコスは取り組みを進めてまいります。

社会的に意義のあることをすれば、利益は後からでもきちんとついてくる──ファーコスには「先義後利(せんぎこうり)」の考えがあります。この考えは親会社のスズケンとも共有する価値観ですが、薬局業界全体の質が向上すれば、社会的に非常に価値のあることですし、ゆくゆくは我々を含め業界の事業者全体にも利益として還ってきます。だからこそ我々は、直近の利益を最優先するような事業展開ではなく、今いちど薬剤師の職域・職能の幅を広げるという観点から、事業を展開していきたいと考えています。

――薬剤師に寄せられた期待に応えるため、また薬局として高い付加価値を提供するための、御社の現在の取り組みについてお教え下さい。

大前提として、ファーコスは保険薬局としての基本である「医薬品の提供」の部分をしっかりと根幹にもって事業を進めます。ファーコスは保険調剤が売上の9割以上を占めており、先ほどもお話した一般名処方の普及などの市場の変化にも対応しながら、患者さまにファーコスの薬局を選んでいただくメリットを最大限感じていただけるよう取り組んでまいります。それに加えて、薬剤師の専門性を発揮できる各分野への取り組みを進めてまいります。現在、主として取り組みを進めているものとしましては、薬局でのOTCの取り扱いを通じてセルフメディケーションの拡大、在宅医療の質の向上、地域連携などがあります。

現在、ファーコスの各薬局では、処方薬との飲み合わせなど、ドラッグストアでは患者さまに対して十分な説明をすることが難しいOTC医薬品の取り扱いを重点的に進めています。これによって、薬剤師の健康相談機能を向上させ、患者さま・お客さまのセルフメディケーションに対するニーズにお応えしようと考えています。薬局の健康相談窓口としての機能が充実すれば、病院の門の前からいらっしゃる患者さま以外に地域の生活者が来局し集患・集客を見込めるようになります。

在宅医療の分野では、服用が比較的容易な錠剤や粉薬はもちろんですが、抗がん剤の点滴など、専門的で調製に技術を要する薬を取り扱えるHIT(在宅輸液療法)にも対応した薬局を、各地域の在宅事業の拠点として設置していきます。また現在、無菌調剤室の付いた薬局が6か所ありますが、これを毎年必要に応じて地域に増設していく予定です。無菌調剤室は他の薬局の薬剤師に利用してもらうことも想定しており、地域の在宅医療の質の向上や、在宅医療における薬剤師の存在価値の向上にも貢献したいという狙いもあります。

ファーコスが地域連携を推し進めていくなかで「薬」に関する知見が必要な場面があれば、そこに薬剤師が積極的に参入・協力し、職域の拡大や職能の発揮の機会としたいと考えています。たとえば地域の薬剤師会の主催する研修会へ、講師・一般参加者どちらの場合においても積極的に参加したり、地域包括支援センターなどで医師・看護師との合同の勉強会を開催したり、老人ホーム・グループホームで介護職員や施設入所者に対する薬の知識のレクチャーなどを行っています。また、薬局薬剤師と病院薬剤師の情報交換や勉強会の機会、すなわち薬薬連携の場も設けています。

以上に例として挙げました薬局でのOTC設置・在宅医療・地域連携はいずれも、薬剤師の薬に関する専門性を発揮する機会を開拓するという観点から事業を進めています。どのような医療の領域にも「薬」の存在があることは共通しており、また生涯にわたって「薬」と完全に無縁である人はいないと思います。そうした領域で薬剤師の職域・職能の幅を広げ、薬剤師が今後も社会から必要とされる存在であり続けることは、薬局・薬剤師業界の安定的な存続と発展にとって必要不可欠なことであると考えています。

ファーコスのビジョン・想いを実現するために求める薬剤師像

――御社のビジョンやその実現のための取り組みの根底にある、薬剤師の社会的な存在意義の追求の強い想いがたいへん伝わってきます。御社が共に働く薬剤師として迎え入れたい方は、どのような薬剤師でしょうか。

自分のことよりもまず、相手のことを考えられるような薬剤師です。保険薬局で調剤する際に確認する処方せんには、まだ患者さまの具体的な疾病名や検査値が書かれていません。それでも患者さまが今どのようなご病気でお悩みなのか、どのような健康上のご不安を抱えられているのかを、患者さまの立場に立って想像し、患者さまと一緒になって治療に取り組むのだという強い意識を持ってコミュニケーションが取れる薬剤師を歓迎します。

高校を卒業して薬剤師を志した最初の動機は、たとえば国家資格によって安定した仕事を得たいとか、高給を得たいといったものでも構わないと思います。しかしながら、大学で学ぶ6年の間に、薬剤師が社会から求められている役割は何かということを考えられる人になっていて欲しい。薬剤師の役割とは何か、医療提供施設で働くとはどういうことかといったことを、自分なりに考えられる人に来てもらいたいと思います。

薬剤師が自身の職能を発揮し、心身ともに健康に働ける環境を作ることは会社のつとめです。ファーコスは薬剤師の仕事面・生活面でのよい条件を整え、薬剤師が自身のパフォーマンスを存分に患者さまに発揮してもらえるようにしたいと考えています。生活する上で待遇はもちろん大事ですが、働く会社がどのようなビジョンを持っているのか、そこで薬剤師はどのような仕事があり、どのような専門性を発揮できるのかといった視点を持って、会社選びをして頂きたいと考えています。