オーストラリアの薬剤師9

創薬研究員、薬局薬剤師、学習支援・薬局研究部門のマネジャーを経て、シドニー大学大学院で薬学博士号の取得を目指す藤田健二先生に、オーストラリアの医療制度および薬局実務を読み解きながら、今後の日本の保険薬局のあり方について考察していただく本連載。最終回となる第9回は総括として、これまでに解説してきたオーストラリアの薬局サービスを質の観点から考察し、日本の保険薬局が学ぶポイントを整理します。

1.医療サービスの質評価のフレームワーク

はじめに、サービスの質を評価するために使用するフレームワークの説明をします。今回使用するフレームワークは、アメリカの医師であるAvendis Donabedian氏によって1966年に提案されたことから、Donabedianモデルと呼ばれています。このモデルは、医療の質に影響を与える要因を「ストラクチャー」「プロセス」「アウトカム」の3つに分類して評価することによって、医療サービスの質を多角的に評価できるフレームワークとして提案されました。

「ストラクチャー」とは、サービスの提供前に決定付けられる条件。具体的には、物的資源(医療施設の数や配置、使用されている医療機器など)、人的資源(人員体制やサービス提供者の知識・スキルなど)、組織的特徴(職能団体の存在、各種保険制度の内容など)が該当します。
「プロセス」は、サービス提供者が提供したサービス活動そのものを指し、診断活動、特定の診断状況における薬剤の使用パターンなどが該当します。
「アウトカム」は、サービスが患者にもたらした変化を指し、健康状態の変化、アドヒアランス向上に役立つ知識量の変化、患者行動の変化、患者満足度の変化などが該当します。

サービスの質評価には「ストラクチャー」「プロセス」「アウトカム」を総合的に判断する必要があります。こうすることで、評価だけでなく、改善に向けたアクションにもつなげることができるのです。このDonabedianモデルは、医師による医療行為の質を評価するためのフレームワークとして考案されました。その後、1993年にミシガン大学の研究者によって、ファーマシューティカルケアの質評価にも有効であるとされ、今では薬剤師の世界でも利用されるようになってきました。ファーマシューティカルケアの概念は、オーストラリアの薬局が志向している医薬品の適正使用( Quality Use of Medicine/第3回参照)の実現とリンクしているため、このフレームワークを使って、オーストラリアの薬局サービスを質の観点から考察します。

2.オーストラリアの薬局サービスの質

図1

Donabedianモデルを利用し、これまでに解説したオーストラリアの薬局サービスをマッピングした結果が図1です。質を考察する際の観点として、2001年に米国Institute of Medicine (IOM) が提言した質向上の目標である6項目(安全性<Safety>、有効性 <Effectiveness>、患者中心性 <Patient-centeredness>、適時性 <Timeliness>、効率性<Efficiency>、公正性<Equity>)を考慮しながら、図1の詳細を解説します。

1) ストラクチャー

(1)医療制度(第1、2回参照)
•国民皆保険制度「メディケア」によって、医療へのアクセスは全国民が保証されている
•専門医や病院への受診は緊急な場合を除いて、一般医(General Practitioner/GP)からの紹介状が必要なため、GPがプライマリケアにおけるゲートキーパーの役割を担っている
•GPを受診する際は原則電話による事前予約が必要

薬局サービスに対する影響として、GPへの受診の際に事前予約が必要なことから、適時性が若干損なわれているといえます。加えて、本連載では詳しく解説しませんでしたが、GPへの受診費用や各種検査費用、薬局での処方せん医薬品の支払いに関しては、セーフティネットと呼ばれる仕組みがあり、年間の支払い総額が一定額に達すると、それ以降の負担額が年内は全額免除または減額となります。このセーフティネットに達するまでの支払い総額は、患者個人ではなく家族単位で合算でき、普段利用する薬局を家族単位で決めていれば、この上限に達したことを教えてくれます。

(2)薬局運営(第4、8回参照)
•開局規制(開設者は薬剤師のみ、最寄の薬局との距離規制、1人が開局できる薬局数の上限)があることで、他業界からの参入を防ぎ、薬局サービスの質の低下を防いでいる
•調剤業務をファーマシーテクニシャンと分担することで、薬剤師は専門性を生かした業務に専念することができる
•スイッチOTC薬によるセルフメディケーションの推進が図られることで、GPを受診することなく薬局で相談し、必要に応じて薬を購入できる
•箱出し調剤により、調剤過誤発生率の減少や患者の待ち時間減少につながるとともに、患者が薬の使用期限を確認できる
•リピート処方せんにより患者の利便性が向上している

これらにより、薬局はサービスの質を維持し、安全で効率的に運営できます。リピート処方せんによる調剤は、GPへの受診頻度が減るぶん、患者の薬物治療管理に対する薬局薬剤師の責任が増すことを意味しており、その点において、薬局サービスの質は薬剤師個人の力量にかかってきます。また、処方せん医薬品の実質的な値下げ拡大や、開局に際する規制緩和が今後進めば(第8回参照)、薬局の在り方や患者が求める薬局サービスの質自体が大きく変化すると考えられます。

(3)職能団体(第3回参照)
•薬局経営者の職能団体「The Pharmacy Guild of Australia/PGA」が連邦政府と5年ごとに交渉して、薬局薬剤師の業務内容や報酬体系等に関する規定を締結することで、職域の適正化を図っている
•各種認定制度を特定の薬局サービスを提供するうえでの必要条件に組み入れることで、薬局機能や薬剤師の質の水準を保っている(安全性、有効性)
•職能団体、大学、薬局などが連携し、優先領域を絞って戦略的に資源を投資してエビデンスを構築することで、薬局薬剤師の職域の維持・拡大を図っている

これらにより、有効性や経済性などの観点から有益であると証明されたサービスに対して報酬が支払われるとともに、サービスの質も一定水準を維持することを可能としています。

2) プロセス

患者の状態変化
・臨床指標、アドヒアランス、患者満足度の改善など

今回はこれまでの連載で解説した内容をもとに考察を行いましたので、これ以外の医療制度や薬局サービスなどが質評価に影響を与えることも容易に考えられます。
薬局サービスの質を評価するには、「ストラクチャー」の項目が「プロセス」の項目にどの程度影響を与えるのか、さらに、「プロセス」の項目が「アウトカム」にどの程度影響を与えるのかについて、エビデンスや専門家によるコンセンサスが必要です。しかし、今回はオーストラリアの薬局の現状から日本の保険薬局が学ぶポイントを整理することが目的なので、限られた情報でも興味深い知見が得られたのではないかと思います。

3) アウトカム

薬局サービス(第5、6、7回参照)
•分割調剤(Staged supply)サービスにより、薬物依存症患者や精神疾患患者による薬の過量服用を防いでいる
•一包化(Dose Administration Aids)サービスにより、薬の飲み間違いの防止、アドヒアランスの向上、医療費の削減につながっている
•臨床介入(Clinical intervention)サービスにより、医薬品使用に起因する問題(Drug Related Problems/ DRPs)の早期発見、早期解決が行なわれ、DRPsによる入院率の低下やそれによる医療費の削減につながると考えられる
•薬局薬剤師による患者宅での薬剤レビュー「Home Medicines Review/ HMR」および介護施設での薬剤レビュー「Residential Medication Management Review/ RMMR」を実施することで、DRPsによる高齢者の入院率の低下やそれによる医療費の削減につながると考えられる薬局薬剤師がインフルエンザなどの予防接種を実施することで、成人層の接種率向上に貢献している

これらのサービスは、各薬局が保有する薬歴データを定期的に解析して、サービスの有効性に関するエビデンスを作り出せるように、データの記録・保管方法をあらかじめ統一していることも特筆すべき点です。また、HMRやRMMRの実施状況は、在宅訪問活動における薬剤師の働き方の多様性と薬局機能分化について考えるうえで、示唆に富んだ情報であるといえます。

3.総括

オーストラリアの薬剤師
図2

いろいろな特徴が出てきましたが、日本の保険薬局が学ぶポイントとは何でしょうか?私は、大きく3点あると考えます(図2)。
1点目は「つなげる」ということ。
オーストラリアでは、現場で活躍する薬局薬剤師、教育と研究を通して薬局実務に貢献する大学教員、生涯学習や認定資格制度を開発運営する学術団体や職能団体が密接に連携しており、地域住民の健康維持・向上のための各施策がリンクしています。日本でも多職種連携の重要性は多くの場で言われていますが、人と人がつながるだけなく、さまざまな職種や団体の取り組みがリンクしている必要性があることが分かります。そして、それを実現するためには、それぞれが自分の持ち場を越えて連携しようという想いと、それを実際に行動に移してつなげる人が重要だと考えます。

2点目は「つくる」ということ。
オーストラリアでは、薬局が対物業務から対人業務へとシフトするために、薬局サービスの有益性についてのエビデンスをつくりだし、それを基に政府と交渉して新たなサービスに報酬が付与されています。日本でも、エビデンスの重要性を感じている人が増えてきていると感じますが、これまでの保険薬局の歴史を振り返ると、政策によって薬局サービスが決められている場合がほとんどだと思います。今後は、患者にとって有益なサービスを提供した薬局が報酬面からも評価されるように、エビデンスにもとづいたサービスの評価を確立する必要があると考えます。

3点目は「ひろげる」ということ。
オーストラリアでは、新たな薬局サービスの効果を実証する際には、まず初めに1つの州や地域内で実施した後に、得られたエビデンスを基にして他の州でも順次展開しています。薬局内でのインフルエンザの予防接種サービスは、2014年にクイーンズランド州のみで始まった研究プロジェクトでしたが、そこで得られたエビデンスを広げ、現在ではノーザンテリトリーを除き、全州で予防接種サービスが薬局内で実施されています。日本では、リピート処方せん、ファーマシーテクニシャン、箱出し調剤などは現時点では導入されていない制度ですが、今後も導入されないとは限りません。薬局が対物業務から対人業務へのシフトを図るには、現行の制度を見直し、各種法規や職能倫理に反しない方法で導入に向けた活動を実施する時期がくるかもしれません。その際に、局所から全体にひろげるという視点が重要になると考えます。

この「つなげる」「つくる」「ひろげる」という3つのキーワードが、本連載のテーマである「日本の保険薬局がオーストラリアの薬局実務から学ぶべきこととは?」という問いに対する回答です。

4.さいごに

全9回にわたって解説してきた本連載も今回が最終回。いかがだったでしょうか。この連載を通して、海外の薬局実務から学ぶことの意義や楽しさを感じ、今後の日本の保険薬局を考える際の視点の1つにして頂ければ幸いです。
最後になりますが、私は日本の薬局機能やサービスがオーストラリアのそれよりも劣っているとは思いません。そのことは、今回の連載を通して改めて認識しました。在宅医療への薬局薬剤師の関わり方を始めとして、お薬手帳、薬歴管理などは極めてユニークな活動です。目の前にいる一人ひとりの患者の健康維持・向上に寄与することは何よりも重要。同時に、日本独自の取り組みの効果を評価して国際社会に発信し、国を越えて世界中の薬局を利用する患者の健康に寄与することも、世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本の薬局薬剤師が果たすべき大きな役目であると思います。近い将来、他国の薬局関係者が日本を訪問し、地域医療における薬局の活動を学びに来ている情景を想像しながら、本連載の幕を閉じさせて頂きます。ありがとうございました。
こちらの記事に関する問合せは「kfuj2522@uni.sydney.edu.au」まで。

主な参考文献
Donabedian, A. (1966). Evaluating the quality of medical care. The Milbank Memorial Fund Quarterly,44(3), 166-206.
Duckett, S., and Wilcox, S. (2015). The Australian Health Care System (5th ed.). South Melbourne, Vic: Oxford University Press.
Farris, K. B., & Kirking, D. M. (1993). Assessing the quality of pharmaceutical care I. One perspective of quality. Annals of Pharmacotherapy, 27(1), 68-73.
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Hattingh, L., Low, J. S., & Forrester, K. (2013). Australian pharmacy law and practice (2nd ed.). London: Elsevier Health Sciences APAC.