薬剤師の悩みのトップに上がるのが「コミュニケーション」ですが、企業が求める人材の資質として挙げているのも、実はコミュニケーションスキルなのです。そこで、薬局・医療コミュニケーションコンサルタントを務める村尾孝子先生に、薬剤師業務におけるコミュニケーションの重要性についてお話しいただきます。

コミュニケーションの必要性は今度ますます高まっていく

この1年ほどで薬剤師を取り巻く環境は急速に変わったと感じています。2025年問題を見据えた在宅医療・在宅介護への取り組みが広がるのを目の当たりにして、薬剤師の活躍の場が拡大することに期待が膨らみます。薬剤師の使命を思う時、今も昔も変わらないのは患者さんや医療者とのコミュニケーションの必要性でしょう。医療や薬学の知識・技術はもちろんのこと、誰とでも臨機応変に適切な対応ができるコミュニケーションスキルを持つ薬剤師が求められており、その必要性はさらに高まるのではと思います。
私が薬局の外での活動を始めてから、それまでは聞こえてこなかった「患者さんの声」を聞くようになりました。薬局の中にいたときには気付かなかった患者さんの思いに触れて、ハッとしたこともあります。ここで少しご紹介します。

患者の立場に立ったコミュニケーションを

ある時、知人の50代女性がポロリとこぼしました。「薬局には行きたくないわぁ。毎回『薬の飲み残しはないか』って聞かれるでしょ。まるで責められているみたいで嫌なのよ」「まるで尋問されてるみたいで不愉快極まりない」と心底辟易しているという口ぶりでした。「薬剤師に嫌だと言わないんですか」と私が尋ねると「だって、あれでなんとか加算をとるんでしょ。嫌だって言ったら、逆にこっちが嫌な顔されそうじゃない?」。残薬確認の背景を知っての反応だと分かります。
コミュニケーションは情報を伝える手段ですが、このケースでは患者さんに情報がうまく伝わっていないためにマイナスの印象を与えてしまっています。義務としてただ情報を伝える(質問する)のではなく、患者さんに共感する努力が大切です。

また、20~30代の女性との会話でも驚いたことがありました。一人が「薬局で、いつも飲んでいる市販薬との飲み合わせをたずねても毎回『わからない』と言われるから、もう薬局では聞かないことにした」と話していました。隣で聞いていた女性も「そうそう、何か聞いても『先生に聞いてください』って言われるから、私も薬局では何も聞かなくなった」と賛同するのです。これは、患者さんは薬剤師を「薬のプロ」として頼りにしていたのに、薬剤師がそれに応えていないケースです。たとえ質問に即答できなくても、調べるなり、患者さんと一緒に考えるなり、いくらでも方法はあるはず。「先生に聞いてください」と返してしまうのはいわば責任放棄。薬のプロとして患者さんと積極的に関わってほしいと思います。

医療の知識ばかり身につけても宝の持ち腐れ!

私が薬剤師に対してコミュニケーションを期待するのは、薬剤師が持つ能力を医療の現場でいかんなく発揮してほしいからです。どんなに知識を身に付けても、活かせなくては宝の持ち腐れ。薬剤師が持つ豊富な知識と技術を、患者さんのために120%発揮する。そのためにはまず、患者さんや医療者が何を望み、何に困っているのかを推察してその気持ちに寄り添うことが大切です。とはいえ、コミュニケーションは経験がなければ決してうまくは行きません。自信がつくまでは「コミュニケーションは質より量」とみずからに言い聞かせ、まずは患者さんとより多くのコミュニケーションをとるように努めましょう。

接遇とは思いやりの心。それを伝える手段がコミュニケーション

接遇とは思いやりの心で対応すること。私が考える医療現場での思いやりの心の表し方には二通りあります。一つは適切な医療サービスの提供、もう一つは患者さんや共働する医療者が何を望んでいるのか想像して行動することであり、それは感謝を伝える礼儀でもあります。思いやりの心は抱いているだけでは伝わりません。薬剤師であれば、患者さんのために役立ちたいと思っているはず。その思いを言葉や態度にして伝えるのが接遇で、そしてコミュニケーションは接遇の手段です。
薬剤師がその職能を存分に発揮し、地域社会で活躍の場を広げるためには、医療や薬学の新しい技術・知識を更新し続けると同時に、患者さんの心に寄り添う接遇とコミュニケーションスキルの向上が欠かせません。また、接遇は医療安全とも密接に関係しています。医療者が安心・安全の医療を提供するためには患者さんとの信頼関係が必須であり、患者さんとの信頼関係を築く基本となるのが、接遇でありコミュニケーションなのです。
今後、薬剤師が在宅医療に関わることが多くなれば、仕事の場も自分たちのホームである薬局内から、アウェーである患者さん宅に移ります。そうなれば、患者さんとのコミュニケーションの仕方もおのずと変化するでしょう。会話のテンポ、表情や姿勢といった非言語コミュニケーションが一層重要になるかもしれません。また、医師や看護師といった多職種とのコミュニケーション頻度も高くなります。在宅医療で医療者との信頼関係を築き、患者さんの安全を守るためにも、挨拶をはじめとする接遇を大切にしていただきたい。そのためにはコミュニケーションスキルの向上がキーとなるのです。

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専門家プロフィール

村尾 孝子

村尾 孝子(むらお たかこ)

薬剤師、医療接遇コミュニケーション コンサルタント、企業研修・講演・セミ ナー講師、株式会社スマイル・ガーデン代表取締役。明治薬科大学薬学部薬剤学科卒業、埼玉大学大学院経済学部経営管理者養成コー ス修了、病院・薬局・教育研修会社勤務を経て現職。