昨今の薬剤師不足もあるのか、正社員雇用の薬剤師が退職を申し出ると、会社から「退職には許可が必要だ」「会社の規定で辞めるのに6ヶ月かかる」などと、引き留めにあったという話を聞きます。
今回は、会社から強引な引き留めにあった場合の法律上の問題について解説します。

正社員は申し入れから2週間で退職できる

正社員は「期間の定めのない労働契約」(特に退職の申し出などがなければ定年まで労働するという契約)を締結しているのが通常です。「期間の定めのない労働契約」においては、民法626条1項で「いつでも解約の申入れをすることができる」と定められており、原則として退職の自由が認められています。また、「解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(民法627条1項)と定められているので、原則、申し入れ日から2週間の経過で企業と社員の契約は終了します。

退職を制限する会社の規則は無効

では、会社が「退職する際には会社の許可が必要」というような契約や「退職する場合は6ヶ月前に申し入れる」といった就業規則を定めていた場合はどうでしょうか。会社の承諾がなければ、薬剤師は退職することはできないのでしょうか。
結論から言うと、退職する際に会社の許可を必要とするという規則は無効となります。労働基準法などは、「労働者が労働契約から脱することを欲する場合に、これを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしている」(東京地判昭和51年10月19日労働判例264号35頁)と考えられているため、このような規則を認めると解約の自由を著しく制約してしまいます。また、このような考え方を前提にすれば、申し入れ期間の延長の規定も無効と考えられます。この裁判例においても、「民法第627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である」としていることから、薬剤師は、退職する際に会社の許可を必要とする規則があったとしても、会社の許可の有無に関わらず、退職の申し入れ日から原則通り2週間の経過で退職できるということになります。

従業員も経営者も歩みよりが大切

以上のとおり、薬剤師を強制的に会社に引き留めることは法的には不可能です。
しかし、お世話になった会社や患者さんに迷惑はかけない方が良いと思います。ですから、退職の申し入れ時期は退職日から2週間前という法律はあるものの、退職の意思が固まったら早めにその意思を伝え、会社と話し会ったうえで退職時期を決定することが望ましいでしょう。なお、薬剤師が民法の規定より短い期間で一方的に退職し、会社に損害を与えた場合は、損害賠償を求められる場合もあるので、注意が必要です。
一方、会社の経営者においても規則だからといって強制させるのではなく、説得をしたり、退職まである程度の期間を提案し、両者合意のうえで勤務してもらうという意識を持ったほうが良いでしょう。薬剤師が退職することを決心している場合は、仕事への意欲も失っているわけですから、無理矢理働かせても良い成果は得られないばかりか、問題が起こってしまう可能性もあります。退職の申し入れがあり、その意思が変わる見込みがない場合はやむを得ないと考えて、次の人材を見つける努力をするべきです。

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専門家プロフィール

赤羽根秀宜

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

薬剤師として調剤薬局に10年勤務する傍ら、司法試験に合格。弁護士として、中外合同事務所に勤務。 医療分野以外にも企業法務や一般民事も多く取り扱っている。

◆主な著書
「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談 Q&A47」