専門スキルを求められる薬剤師は、日々、そのスキルを研鑽(けんさん)する必要があります。そのため、従業員である薬剤師に研修の参加を強制する企業や病院などの雇用主もいるようです。この研修が所定の労働時間内に行われれば問題はありませんが、就業後に研修を実施しているのにも関わらず、時間外労働手当などを支払わない会社があり、問題になることがあります。今回は、所定労働時間外に実施される研修への参加強制について解説したいと思います。

雇用主は就業時間外の研修の参加を強制できるのか

そもそも雇用主は、所定労働時間外の研修への参加を強制できるのでしょうか。法的には、法定労働時間を超えて労働することを「時間外労働」といいますが、「時間外労働」をさせるためには事業上の労使協定(36協定)を結び、労働基準監督署長に届け出る必要があります(労働基準法36条)。「時間外労働」をさせる旨が就業規則で規定されている、または、個別の労働契約に盛り込まれていることが必須であり、それらに合理性があることも必要です。通常、薬局や医療機関などでは時間外労働の発生が想定されているので、この手続きはとられているはずです。

しかし、前述の要件を満たしていても、研修などに業務上の必要性が認められない場合には、この命令は無効となります。また、薬剤師に時間外の研修に参加できないやむを得ない理由がある場合は、この命令は権利濫用となり無効になると考えられます。とはいえ、薬局や医療機関などでは所定労働時間内に研修を実施することが難しいため、時間外労働としての研修でも認められる場合が多いでしょう。つまり、参加できないやむを得ない理由がない限り、研修に参加する必要があるのです。

就業時間外の研修への強制参加に時間外労働手当などの支給は必要か?

では、所定労働時間外の研修への参加を強制した場合、雇用主は時間外労働手当などを支払う必要があるのでしょうか。これは、この時間が「労働時間」にあたるか否かで決まります。中には「薬剤師としての業務が労働なのだから、研修は『労働時間』ではないと考える方もいるかもしれません。しかし、法的に「労働時間」とは業務の内容で決まるのではなく、「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」(最判平成12年3月9日 民集54巻3号801頁)とされています。したがって、研修であっても雇用主から参加を強制されている以上は指揮監督のもとにあると考えられ、「労働時間」にあたります。

なお、研修への参加が会社の内規などによって「労働時間」にならないと定められていたとしても、前記判例によれば「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない」とされているため、「労働時間」となります。

上記から、雇用主からの強制であれば、研修への参加も「労働時間」とみなされ、研修が所定の労働時間外であれば、雇用主は時間外労働手当などを支払わなければなりません。仮に、この研修により1週40時間、1日8時間の「労働時間」(法定労働時間 労働基準法32条1項)を超える場合には、割り増し賃金として原則通常の賃金の2割5分以上の支払いをする必要があります。しかし、これが任意の参加であれば時間外労働手当などを支給する必要はありません。

薬剤師には知識と理解を深める義務がある

2014年11月に施行された医薬品医療機器等法(旧称:薬事法)には以下の条文が追加され、薬剤師に医薬品などの知識の理解を深めるよう要求しています。

医薬品医療機器等法(旧称:薬事法)
(医薬関係者の責務)
第一条の五  医師、歯科医師、薬剤師、獣医師その他の医薬関係者は、医薬品等の有効性及び安全性その他これらの適正な使用に関する知識と理解を深めるとともに、これらの使用の対象者(動物への使用にあつては、その所有者又は管理者。第六十八条の四、第六十八条の七第三項及び第四項、第六十八条の二十一並びに第六十八条の二十二第三項及び第四項において同じ。)及びこれらを購入し、又は譲り受けようとする者に対し、これらの適正な使用に関する事項に関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならない。

したがって、雇用主に強制されなければ勉強しないというのでは問題があるでしょう。薬剤師は、雇用主からの強制の有無に関わらず、研修などには積極的に参加して研鑽を積むという意識を持つことが必要なのです。

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専門家プロフィール

赤羽根秀宜

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

薬剤師として調剤薬局に10年勤務する傍ら、司法試験に合格。弁護士として、中外合同事務所に勤務。 医療分野以外にも企業法務や一般民事も多く取り扱っている。

◆主な著書
「赤羽根先生に聞いてみよう 薬局・薬剤師のためのトラブル相談 Q&A47」