
皆さんは、ご自身が薬局で薬を受け取るとき、自分も薬剤師であることを伝えますか?私は、これまであえて伝えていませんでした。
なぜなら、薬を受け取る側に立って説明を聞いてみると、薬剤師として働いているときには気づかなかった発見があるからです。
「こんなふうに伝えると、分かりやすいんだ」
「子どもには、こんな声かけをするんだ」
娘・ことねの薬をもらうたび、私は患者の母として説明を聞きながら、こっそり勉強させてもらっていました。
……ところがある日。
そんな私の“正体”を、ことねがあっさりバラしてしまったのです。
「今日、ピンクのお薬ある?」
ことねには、お気に入りの薬があります。
それが、“ピンクのお薬”。ワイドシリン細粒です。
薬局に着くと、ことねはいつも薬剤師さんに聞きます。
「今日、ピンクのお薬ある?」
普通なら「苦い!飲みたくない!」となりそうなものですが、ことねは、このピンクのお薬が大好き。
「ピンクのお薬あるよ」
と言われると、それだけで嬉しそうにしていました。

この日は、いつもの“ピンクのお薬”とは別のお薬。今では、自分で薬包を開けるのもすっかり上手になりました。
ある日も、いつものようにことねが尋ねました。
「今日、ピンクのお薬ある?」
「今日はね、ピンクのお薬はないかな」
そう薬剤師さんに言われると、ことねは少し残念そう。
「ピンクのお薬、好きなんだね。でもね、今日は、ピンクのお薬はお休みなんだよ。」
そんな風にことねの目線で優しく話してくれる薬剤師さん。
“ない”ではなく、“お休み”。
子どもの目線に合わせて言葉を選ぶ薬剤師さんの姿を、私はいつも興味深く見ていました。
そして、その日も私は患者の母として、薬剤師さんの話を聞いていました。
ところが――。
ことねが突然、大きな声で言いました。
「ママも薬剤師さんなんだよ!」
……ことねさん。
今、それ言う?
「えっ、そうなんですか?」
薬剤師さんも、少し驚いた様子。
「……はい。一応、薬剤師です(笑)」
さっきまで「へぇ~!」なんて言いながら、いろいろ教えてもらっていた私。
なんだか急に恥ずかしくなりました。
できれば最後まで、患者の母として聞いていたかった。
そんな私の気持ちなど、ことねが知るはずもありません。
「ママは薬剤師さんなんだよ!」がパワーワードに
どうやら、私が気まずそうにしている姿が、ことねには面白かったようです。
この日を境に、
「ママは薬剤師さんなんだよ!」
は、ことねのお気に入りのひと言になりました。
薬局へ行けば、もちろん言う。
「ママは薬剤師さんなんだよ!」
ママ友にも言う。
「ことねのママ、薬剤師さんなんだよ!」
幼稚園の先生にも言う。
「ママは薬剤師さんなんだよ!」
聞かれていなくても、とにかく言う。
……ことねさん。
ママの職業、そんなに積極的に広報していただかなくて大丈夫です(笑)。
私が困った顔をするたびに、ことねはどこか楽しそう。
どうやら、完全に味をしめてしまったようです。
患者の立場になって、初めて気づくこともある
今も私は、自分の薬や家族の薬を受け取るときに、薬剤師さんの説明を聞くのが好きです。
同じ薬について説明するとしても、言葉の選び方や伝え方は人それぞれ。
薬剤師としてカウンターの内側にいるときには気づかなかったことが、患者や家族として反対側に立つと見えてくることもあります。
薬剤師になって何年経っても、誰かの説明から学ぶことはたくさんあるのだと思います。
そして、そんな真面目なことを考えている私の隣には、今日も、余計なひと言を言うタイミングを狙っていることねがいます。
「ママも薬剤師さんなんだよ!」
……はいはい。もう分かったから。
そう思いながらも、どこか誇らしげに「ママは薬剤師さん」と話す娘を見ていると、悪い気はしない母なのでした。


