薬剤師として勤務した経験があれば、どこかで管理薬剤師と一緒に仕事をしたことがあるはずです。ここで改めてその役割とキャリアにおけるメリット・デメリットについて整理してみましょう。
管理薬剤師とは、薬機法で「薬局や店舗など、拠点ごとに設置が義務づけられている責任者を置くこと」と決められている、店舗の管理責任者のこと。
役割はいわば薬局というチームの司令塔。サッカーなら「トップ下のミッドフィールダー」のように、チーム全体をまとめるキャプテンシーを発揮しつつ、いいリズムで試合の流れを作り出していく。薬局やドラッグストアにおける管理薬剤師の役割も同じです。
具体的には薬剤師の一スタッフとして調剤や服薬指導などをこなしつつ、現場のリーダーとして薬品や医療品などの管理、それに従業員の指導・教育役も担います。したがって、店長やオーナーが、管理薬剤師を兼任する薬局やドラッグストアも多くあります。
薬局の場合、薬剤の管理は非常に重要です。
薬局では、どんな患者さんが来ても、確実に調剤できるような環境を整えるために、常に在庫を把握しておく必要があります。温度や湿度が適正な状態で品質管理され、遮光や冷所での保管、それに薬剤の有効期限にもきめ細かい目配りも求められます。この責任を担うのが管理薬剤師です。
さらに、最近ではドラッグストアはもちろんのこと、調剤薬局でもOTCのほか、医薬部外品、サプリメント、食品などを扱うところが増えています。薬事法で定められている薬剤と、それ以外の一般販売品は、患者さんには明確に区別をしてもらう必要があります。POPなども含めて、患者さん、お客さんが混乱しないように陳列するのも、管理薬剤師の責任の一つです。
現場の労務管理も重要な仕事です。スタッフの勤務シフト作り、休日の管理は管理薬剤師の仕事である薬局が多いようです。体調面や健康管理などに気を配る必要もあります。
一人一人には個性や適正、キャラクターの違いがあります。現場を担う薬剤師の誰もが気持ちよく仕事し、個々の能力を発揮できるような環境を整えられるかどうかは、管理薬剤師の手腕にかかっています。
一方、薬局やドラッグストアを訪れる患者さんは、病気や健康不安を持っている人ばかりですので、優しく、わかりやすい薬剤情報の提供、服薬指導を行うことが大切です。すべての現場薬剤師がきちんとコミュニケーションできるように、しっかりと指導をすることも管理薬剤師の役割です。
このように、仕事の幅が広い管理薬剤師になる主なメリットとしては、収入面と経験値の蓄積が挙げられます。
まず、収入面については、管理薬剤師になると、職務手当を支給されます。企業によってばらつきはありますが、月額でおおむね3~7万円のアップになるところが多いようです。仮に年収500万円で働いていた場合、管理薬剤師になると、年俸ベースで10%以上の増額です。
役職による年収差を比べてみると、薬局勤務の一般薬剤師の平均年収約474万円に対して、管理薬剤師は約752万円です。管理薬剤師になるまでの勤続による昇給分も合わせ、高年収を得ることができます。
次に経験の面について。管理薬剤師になると部下や後輩の育成・指導、現場のマネジメントまでこなす必要があります。調剤現場の小さなトラブルや、人間関係といった様々な問題に日々対応するため、問題解決に関して多くの経験を積むことができます。
自分の薬剤師としてのキャリアプランを考えるときに、管理薬剤師になることは最初のステップと言えます。「将来は昇進して経営に携わりたい」「いつか独立して開業したい」と考えているのなら、キャリア面でも実務面でも、管理薬剤師の仕事を経験しておくことは不可欠の要素でしょう。
メリットがあれば、必ずデメリットもあります。例として、肉体的・精神的な負担の大きさがあります。人手不足が慢性化している薬局業界ですので、スタッフが急に辞めてしまったりすると、人員が補充されるまでタイムラグが発生し、現場リーダーである管理薬剤師の残業や休日出勤が増えることもあり得ます。
また職場によっては、人間関係の調整に苦労することもあります。薬キャリ実施のアンケートでは以下のような声がありました。
「勤務先の管理薬剤師はまだ30代ですが、責任感もあるし、我々の相談にもちゃんと乗ってくれるなど、とても頼りになります。ただ他の人よりも積極的に残業もしているし、自分より年長の薬剤師さんに何か頼みごとをするときには、かなり気を遣っているところもあって、ストレスはあるだろうと感じます」
千葉県:20代男性
子育てや介護などで時間的な制約があったり、対人関係のストレスに弱かったりする人は、収入アップだけでは割に合わないと感じる可能性もあります。
管理薬剤師を目指すかどうかは、自分の収入状況や性格、将来のキャリアパス、それに現在の家庭環境などを考慮することが大切です。
特別な資格は必要ありません。法律上、派遣やパートの薬剤師でも、管理薬剤師になることは可能です。
ただし、薬機法第一章、七条の3項には、次のようなルールが定められています。
つまり、管理薬剤師は薬事関連の兼業や副業は禁止されており、必ず1か所の薬局で専従している必要があるのです。複数の薬局で同時期に勤務するパート薬剤師などは、管理薬剤師になることはできません。
管理薬剤師になる方法で、もっともオーソドックスなのは昇格・昇進です。「管理薬剤師を目指したい」と思ったら、まずは職場での実績を上げ、各企業内で定められ要件を満たすことが最短ルートです。
とはいえ、「自分より上がつかえていて、なかなかポストが空かない」「昇進・昇格が遅い企業風土がある」などで、なかなか機会が巡ってこない薬局もあるでしょう。
そんな場合は転職を考えてみるのも手です。コンサルタントに聞けば、管理薬剤師になる可能性や必要な期間について各社の特徴を知ることができます。
薬キャリでは、自分のキャリアパスについての希望をふまえて複数の転職エージェントを比較検討できるだけでなく、非公開・急募などの情報も豊富にあります。勤務地、業種、職種、雇用形態など、自分の希望に合った職場への近道になるはずです。